そして消えゆく君の声
「……そんな」


 たしかに、日に焼けていない腕にはまだ癒えきらない傷がいくつも見受けられた。

 どれも痛々しかったけれど、中でも手首あたりに残る打撲はひどくて。骨が折れていないのが不思議なほど腫れ上がって、青黒く鬱血していた。


 あれを征一さんが?

 何のために?


「本当に、征一さんが? どうして、だって、こんなこと――」

「それが俺のためだと思ってるから」  


 遠くで聞こえる人の声。きっと運動部が練習しているんだと思う。

 学内では、今もみんなお昼を食べたり、笑いあったりしているはずなのに、私たちの間に流れる空気はこれ以上ないほど張りつめ……ちがう、じわじわと胸をしめつけるような息苦しさをはらんでいた。


「征一は家族を管理するものだと認識している。昔の親父みたいに行動を監視して、試して、定められた枠を逸脱した時は罰を与える」
「……」
「そうやって秩序を保つことが皆のためで、俺を守るんだと思っている」


 守る。
 罰することが。

 ゾク、と背に悪寒が走る。
 
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