そして消えゆく君の声
「……」

「幸記くんが電話で話していた時も変だなって思ったの。この辺のこと全然知らないみたいだったし、だから、どこか遠くに住んでるのかなって」

「…………」


 汚れた地面を見つめる黒崎くん。
 長い指が、迷うように肘をつかんだ。
 

「行ってない」 

「え」

「幸記は、学校に通っていない」
 

 ………通っていない?

 そんな、どうして。
 

「どうしてそうなったのか、はっきりした理由はわからない。確かに幸記は持病を抱えているし、行動が制限されることもある。でも通学を諦めるほどじゃない」

「じゃあなんで……」

「……幸記は」


 黒崎くんは言葉を止めた。

 重く長い沈黙、頭上を通り過ぎていく白い雲。ようやく唇が動いた瞬間、それが合図だったみたいにチャイムが鳴った。


「あの子は存在が間違っているから外に出すべきじゃないって、征一が」


 五時間目の開始を告げるチャイムが鳴っている。
 けれど、私は動かなかった。


 動けなかった。
 
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