そして消えゆく君の声
「めちゃくちゃなんだよ。幸記はうちに来るまで、ひどい環境で暮らしていたんだ。叔母は若いころに家を飛び出して、行方が分かった時にはすでに亡くなっていた。母親を失って、父親は身元すら分からない。誰の助けも届かなくて、ようやく居場所が見つかった、なのに」
堰を切ったように溢れる言葉。
こんなにしゃべる黒崎くんは初めて見た。冷えきっていた語調に熱がやどって、血を吐くように話している。
「引き取ると決めたはずの親父は何もしない。まともに声もかけない。うちを見たことがあるだろ? あの馬鹿みたいに広い家では大勢の人間が働いていて、くだらない嫌がらせが横行しているんだ」
「……」
「日原が見た痣だって、幸記の目のことを知っている奴が怪我をするよう仕向けたのが原因で。ずっと閉じ込められて、つらい目にあって、だから幸記は逃げ出したのに、征一はもっと監視を厳しくすると言い出して、俺が止めたら、刃物まで……」
はもの。
私は。
私は、唇の動きだけでそう呟いて、催眠術にかかったみたいに黒崎くんに近付いた。
一歩一歩、距離をつめて、手が届くほど近付いて。触れた頬の下がどうなっているのかは、厚いガーゼに阻まれて、わからなかったけど。
「大したことない。縫う必要もなかった」
「………!」
堰を切ったように溢れる言葉。
こんなにしゃべる黒崎くんは初めて見た。冷えきっていた語調に熱がやどって、血を吐くように話している。
「引き取ると決めたはずの親父は何もしない。まともに声もかけない。うちを見たことがあるだろ? あの馬鹿みたいに広い家では大勢の人間が働いていて、くだらない嫌がらせが横行しているんだ」
「……」
「日原が見た痣だって、幸記の目のことを知っている奴が怪我をするよう仕向けたのが原因で。ずっと閉じ込められて、つらい目にあって、だから幸記は逃げ出したのに、征一はもっと監視を厳しくすると言い出して、俺が止めたら、刃物まで……」
はもの。
私は。
私は、唇の動きだけでそう呟いて、催眠術にかかったみたいに黒崎くんに近付いた。
一歩一歩、距離をつめて、手が届くほど近付いて。触れた頬の下がどうなっているのかは、厚いガーゼに阻まれて、わからなかったけど。
「大したことない。縫う必要もなかった」
「………!」