そして消えゆく君の声
 ああ。

 この白い覆いの下には切り裂かれた頬があるんだ。弟を守るために、つけられた傷が。


「だれかに、言ったほうが」

「誰かって誰だよ、相談してどうにかなるならとっくにそうしてる」


 苛立ちをにじませた声に、胃がしめ付けられるような痛みを覚える。

 私だってわかっている。下手に動いて、それこそ征一さん……意に沿わない行動に対して、刃物すら手にとるような人に知られたらどうなるかわからない。

 それに、対峙しているのは征一さんだけじゃない。

 あの気の遠くなるほど大きな家が、その後ろにある途方もない力が、行手を阻んでいる。誰かに頼ることも、助けてと言うこともできない。


 じゃあ、どうしたらいいんだろう?

 どうすれば、力になれるんだろう?


 必死に頭を悩ませても、いい案なんて浮かぶはずもなくて。

 焦燥、悲痛、無力感、怒り。

 いろいろな感情がごちゃごちゃになって、目の奥が、じわっと熱くなるのがわかった。


「半端に話したのは悪かった。でももう終わりだ、これ以上関わる必要はない」

「でもこのままじゃ」

「しつこい。俺は誰かに助けてほしいなんて思ってないし、幸記のことだって守るつもりだ。そもそも、これは日原には関係な……」

「………でもっ…!!」
 
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