そして消えゆく君の声
「ミルクティーブレンドとスコーンお願いします」


 お気に入りのお茶を注文して、ぼんやり携帯の時計を眺める。待っている時間はいつも気持ちがそわそわして、落ち着かなかった。

 だって。


(なんか、デートみたいだし)


 放課後、喫茶店で落ち合って。

 お茶を飲みながら、なんでもない話をして。きっと、雪乃も彼氏と同じことをしているはず。


 話をして、知りたくなって。

 知ったら、そばにいたくなって。

 今では、こうして会うたびに胸の中がふわふわして、嬉しいのにドキドキしている。


(好き、なんだろうな)


 日に日に、自分の中ではっきりしていく気持ち。

 不器用で、無口で、ちょっと短気で。でもすごく優しい黒崎くん。

 かっこいいなとか、憧れるとかじゃなくて、誰かに恋をしたのなんて、きっと小学生のころ以来。


 好き。

 ……大好き。


 でも、その気持ちが大きくなればなるほど、足元で色濃くなっていく影。黒崎くんを取り巻くどうしようもない状況。


(私にできることがあればいいのに)


 何度も胸に思い描いて、同じ数だけあきらめた願い。

 好きな人が傷付けられているのに、つらい現実から目をそらすしかないなんて。あの日聞いた、苦しそうな声に背を向けるしかないなんて。


 自分が無力なのはわかっている。どうしようもないことなのも理解している。


(……それでも)


 グラスの水が揺れる。

 ちいさく波打つ楕円形には、うつむいた私の顔がうっすら映っていた。
 
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