そして消えゆく君の声
 黒崎要。


 告げられた名前と、記憶の中にある「要さん」を結びつけるには時間がかかった。

 だって、私の知る要さんはフレームの細い銀縁眼鏡が印象的ないかにも真面目、厳格っていう感じの人で。

 征一さんの隣で神経質そうに眉間を寄せている姿は、到底こんな風にしゃべるようには思えなかったから。


「か、要さん、なんですか?その、本当に……」

「嘘だとしても確認なんて取れないでしょ、とりあえず信じておきなよ」

「あの、なんで私に、電話なんて」

「前から連絡を取りたかったんだけど連絡先がわかんなくってさ。でも学校で探すわけにもいかなくて、しょうがないから秀二のスマホを」

「そうじゃなくてっ」


 思わず声を大きくする私に、電話ごしの声がなだめるような響きを帯びる。


「わかってるよ、言いたいこと。でも話すと長くなるから後回し」

「………」

「秀二が風呂から出てきたら、面倒だしね」


 言外にふくまれた秘密の予感に、携帯を持つ手が汗ばむ。

 私の緊張が伝わったのか、通話口の向こうで「要さん」が笑った……気がした。


「というわけで用件は簡潔に。今度、俺とデートしようよ」

「デ……」


 理解できない言葉に、ショートする思考。 
 数秒して、ようやく意味を理解した私は悲鳴に近い大声を上げた。
 
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