私が本物の令嬢です!
いけない。
これ以上、彼を見ていたら真実を話したくなってしまう。
だけど、フローラだと名乗れない以上、どうすることもできない。
フローラは黙って各々の席に料理を運んだ。
マギーに料理を出そうとしたとき、突然彼女に足を引っかけられた。
「あっ……」
前のめりになり、転びそうになったが、何とか堪えた。
だが、料理からソースがこぼれ、マギーのドレスにかかった。
「まあ、ドレスが汚れてしまったわ」
マギーの声に、一同ざわつく。
「そのドレスはこの日のために用意した高価なものなのよ!」
とマギーの母がわざとらしく声を上げた。
「この大切な日に、なんという無礼な! お前、皆さまに謝罪しろ!」
激怒した伯爵に、フローラは深々と頭を下げる。
「も、申しわけ……ありませ……」
「いいわ、許してあげる。ドレスなんてまた買えばいいわよ。失敗は誰にでもあるわ。あなたも気にしないで」
満面の笑みでそんなことを言うマギーに対し、フローラはぞっとした。