私が本物の令嬢です!
お菓子を食べながら、お互いに自己紹介をした。
フローラはこの家のひとり娘であること、セオドアは公爵家の長男であること。
そして、ふたりはお互いの趣味や好きなものについて語った。
フローラは大好きな書物について話すと、セオドアも興味を持った。
「うちには大きな書庫があるんだ。今度うちへ遊びにおいでよ」
「ほんと? 嬉しいわ」
「君はどんな本が好きなの?」
「何でも好きよ。何でも読むもの。だけど、一番心に残っている本があるわ。そこに書いてある言葉がとても印象的なの」
「どんな言葉?」
「それはね……」
*
昔の記憶を辿っていたとき、ふいにガサッと音がして、フローラは振り向いた。
その視線の先には大人びたセオドアの姿あった。
幼い頃の面影を残したまま、背丈はすらりと高く伸び、可愛らしい表情は凛々しくなっている。
セオドア……。
そう名前を呼ぼうとしたが、声が出なかった。
彼の名前さえも、口にすることができないのだろうか。
フローラはぺこりとお辞儀をして、この場から立ち去ろうとした。
しかし、いきなりセオドアに腕をつかまれた。
「大丈夫ですか? あなた、泣いている」
「えっ……」
振り返った瞬間、セオドアの顔がすぐそばにあった。
フローラは耐えきれず、涙をぼろぼろと流した。