私が本物の令嬢です!

「まさか、俺が……」


 少し前、友人のひとりが平民の女に惚れ込み、貴族の娘と婚約破棄をしたという話を聞いたばかりだ。
 それを知ったとき、他の友人たちと「あいつはおかしい。あり得ない」と話した。
 婚約者を捨てて平民の女と一緒になった友人は「僕は真実の愛を見つけた」と話していた。

 何が真実の愛だ?
 あいつは頭がおかしくなったに違いない。

 などと話していたものだ。


「俺も頭がおかしくなったのか……」

 忘れようとしても思い出す。
 あの女の顔を。

 なぜか、酷く懐かしい気持ちになった。
 そして、愛おしく感じた。

 これが真実の愛なのか?
 だとしても、それでフローラと婚約破棄などできない。


 これから何度かフローラに会いに行くことになるだろう。
 なるべく、あの使用人とは目を合わせないようにしよう。

 時間が、忘れさせてくれる。
 そう思っていた。



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