私が本物の令嬢です!
その日は一日中、雨が降っていた。
嵐のように雨風が酷く、川辺では飛ばされた人が溺れてしまうという事故もあった。
そんな中、ナスカ家の使用人たちのあいだで、ちょっとした騒ぎがあった。
「あらまあ、旦那さまのお夜食にお出しするチーズがないわ」
「え? ここにあったでしょう?」
使用人たちがキッチンでざわついている。
すると、先輩使用人が笑いながら言った。
「それ、あたしたちの夜食にしようと思って使ったの。ちょうど古いワインが残っていたし、今夜くらい楽しんでもいいでしょ」
「旦那さまのお夜食はどういたしますか?」
「そうね、チーズを買ってきてくれるかしら? ねえ、フローラ。あ、違った。マギー」
床を雑巾がけしていたフローラは四つん這いの状態で顔を上げた。
そこには先輩と他の使用人たちが立って見下ろしている。
「あ……でも、この嵐で外出するのは……」
フローラが震え声を出すと、使用人たちは汚いものを見るような目で嘲笑した。