私が本物の令嬢です!
「あなたが死んでも誰も悲しまないわよ」
「そうよ。さっさと行ってきなさいよ」
「どうせなら、そのまま川で溺れてしまえばいいんだわ」
「それは駄目。この子がいなくなったら私たちで雑用をしなきゃいけないじゃない」
「それもそうね。溺れてもいいけど、自力で戻ってきてね。あんたを使ってやるんだから」
フローラは「わかりました」と言って俯いたまま、逃げるように屋敷を出た。
外は雨風が強く、傘を差していてもフローラはびしょ濡れになる。
吹き飛ばされないように、フローラは買い物かごをしっかり持ち、使い物にならない傘を握りしめる。
そのとき、背後から誰かの叫ぶ声がした。
「馬車が暴走しているぞ!」
フローラが振り返ると、暴れた馬が走ってくるのが見えた。
逃げきれない。
そう思った瞬間、誰かに腕を引っ張られた。
そして、そのまま抱きかかえられるようにして、その者と一緒に道端に倒れた。
「君、大丈夫か? 怪我は?」
この声はセオドア。
フローラが顔を上げるとそこには雨に濡れた彼の姿があった。