私が本物の令嬢です!

「あ、ありがとう、ございます。大丈夫……うっ!」

 足首に猛烈な痛みが走った。


「怪我をしている。俺につかまって」
「えっ?」
「どこか手当てのできるところへ行きましょう」

 セオドアがフローラの肩を抱いて支える。
 フローラはふらついた拍子にセオドアに寄りかかった。


「す、すみません……失礼を」
「いいえ。とにかく、雨を凌げる場所へ移動しましょう」
「……はい」

 まさか、こんなことが起こるなんて思いもしなかった。
 先ほどまで絶望の中にいたというのに。

 今は愛する人のこんなに近くにいる。


 しかし、今の自分はただの使用人に過ぎない。
 セオドアにはフローラという婚約者がいるのだから、こうしてすがりつくのは迷惑でしかない。

 けれど、今だけ。
 この夢のような時間を。

 フローラは泣きながら微笑んで、この一瞬だけ、幸せを感じた。



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