私が本物の令嬢です!

 フローラはセオドアに連れられて、魔法師の屋敷を訪れた。
 あまり手入れのされていない庭は雑草が鬱蒼と生い茂り、古びた洋館は陰鬱な雰囲気が漂っている。


「あの、ここは?」

 フローラが訊ねると、セオドアは笑顔で答えた。


「俺の従弟の家なんだ。ひとまず嵐が過ぎるまでここで避難させてもらおう。怪我の手当てもしなければならない」

 古い木製の扉が音を立てて開く。
 すると中から黒ずくめの男が出てきた。
 フローラは見覚えがあった。


「あ、あなたは……」
「あんた、あのときのお嬢さんじゃないか」

 驚いたのはセオドアも同じだ。


「君たちは知り合いだったのか?」
「知りません」

 フローラはすぐさま否定した。
 いくらセオドアの知り合いだとしても、フローラの中ではこの男は不審者だ。


「グレン、彼女が怯えているじゃないか。一体何をしたんだ?」
「いや、何もしてねぇよ」

 セオドアはフローラに優しく微笑む。


「大丈夫だよ。こいつは少々顔が怖くて口が悪いけど、悪い奴じゃないんだ」
「お前、言いたい放題だな」
「本当のことだろう」
「ちっ……」

 彼らのやりとりを見ていたフローラは少しばかり緊張が解けた。


< 32 / 97 >

この作品をシェア

pagetop