私が本物の令嬢です!

「どういうことだ?」
「アルレア侯爵家といえば……」
「たしか、雨の日に視察に出て崖から転落したって話じゃ……」
「その視察にナスカ伯爵も同行していたって聞いたわ」

 周囲の声に焦った伯爵が声を荒らげる。


「違うーっ! あれは私ではない! あいつだ! あの男が私を殺そうとしたんだ! だから」

 伯爵自ら当時の出来事を暴露してしまった。
 周囲はさらに疑惑の目を向ける。


「事故って話だったわよね」
「殺そうとした? どういうことだ?」

 伯爵は自分の立場が悪くなっていることを悟り、冷や汗をかきながら黙る。


「そのことも含めて、洗いざらい話してもらう必要がありそうだ」

 セオドアが近づくと、伯爵はもう何を言っても無理だと思ったのか、開き直った態度で高らかに笑った。

「あははははははは」

 伯爵の声がしんと静まった会場に響きわたる。異様な光景である。


「フローラ!」

 伯爵は偽りのフローラであるマギーではなく、本物のフローラに向かって叫んだ。



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