私が本物の令嬢です!

 彼らが談笑をする貴賓室に、フローラが入れてもらえることはなかった。
 お茶を出す仕事は他の使用人たちが行い、フローラはキッチンで食事の準備をしていた。
 貴賓室に入った使用人たちが戻ってきて、きゃっきゃっと嬉しそうに公爵家の話で盛り上がるのを、フローラはそばで聞いていた。


「公爵さまは本当に素敵ね。あの方に嫁ぐお嬢さまがうらやましいわ!」
「本当よね。夢みたいだわ。あたしも、あんな殿方に見初められたいわ」
「どうやら公爵さまは昔、お嬢さまとお会いしたことがあるらしいのよ」
「まあ、そうなの? いつの頃かしらね」
「10年前だと言っていたわ」
「残念。その頃の使用人はもういないわね。おふたりの幼少期の話が聞きたかったわ」


 フローラは黙々と銀食器を磨く。


 あの頃の使用人たちでさえ、セオドアとフローラがふたりで会っていたことを知らない。
 なぜなら、公爵家の訪問の日、フローラは父によって狭い部屋に閉じ込められていたからだ。

 しかし、フローラはこっそり抜け出して裏庭で遊んでいた。
 たまたま庭を散歩していたセオドアと、フローラはそのときに初めて会った。


 フローラが6歳、セオドアが9歳のときだった。


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