私が本物の令嬢です!

「時々、会いにいきますから」
「本当? 約束よ。どうか、私を忘れないで!」
「わかりました」

 伯爵夫人が正気なのか、もうほとんどわからなくなっているのか、フローラには判断できなかった。
 しかし、医師が言うには夫人は急速に思考が退化しているらしい。

 こうして夫人は伯爵家を出ることになった。
 そしてしばらくの後、夫人は完全に自分のこともわからなくなり、ひとり静かに息を引き取ったという。


 フローラが伯爵家を出ていく前日のこと。
 その夜は激しい雷雨だった。
 窓ガラスが割れ、強風が室内に吹きすさぶ。
 そこから、ずぶ濡れの黒い影が侵入してきた。

 フローラはそこから離れた寝室で静かに就寝していた。
 黒い影はひたひたとフローラの寝室へ向かい、ゆっくりと扉を開けた。
 その手には鋭い刃物。
 窓に稲光が走り、刃物をぎらりと照らした。
 そして、それがフローラの身体に振り下ろされようとしたとき。


「やっぱり来ると思っていたわ。マギー」

 フローラがぱっちりと目を開けた。




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