推し作家様、連載中につき。

「だめだよ羽花ちゃん……っ、いくらなんでも危ないよ!」

「えっ……」



 思わずパッと掴んだ腕を引くと、くるりと振り返った親友。


 困惑が浮かぶその顔は、少し驚いた表情をしつつも、いつもどおりの彼女だった。


焦りとか、不安とか、緊張とか。


 普通ならなにかが混ざっていてもいいはずなのに。


 まったくと言っていいほどに、そんなようすが微塵もみられないから、逆にこっちのほうが混乱してしまう。



「通話だけでとどめておくんじゃなかったのっ!? リアルでは会わないって約束したじゃん! なにされるか分からないんだから……っ」



 それはもう必死だった。


 少しでもはやく、この隣に並ぶ男から羽花ちゃんを救出しなければ。


 もしかすると、こんなに平気そうにしているけれど、内心助けてと叫んでいるかもしれない。


 そんな使命感に燃え、周りがまったく見えなくなって。


 たとえ殴られたり蹴られたりしても、羽花ちゃんを守るためなら、私はなんだってできるから。



「羽花ちゃんから、離れなさい…っ」



 喉までは大きな声で出かかるのに、実際に声にすると、震えとか、掠れとか、そんなものばかりが目立つ。


 それでもここで怯えるわけにはいかない。
 


「どこの誰か知りませんが、羽花ちゃんから離れなさい……!!」



 ちょうど隠れて見えなかった部分が見えたとき、私はたぶん、人生で一番驚愕することとなる。



 それは一瞬だった。


 強引に羽花ちゃんの肩を掴んで、ぐいっと自分の方に引き寄せたとき。


 彼の半分振り向いた横顔が、ちらりと視界に映って。



「……せん、せい?」



 そんな間抜けな声が、小さく響いた。
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