私は目的もなく、目がつぶれそうな程の光を避けて進んで、いつの間にか二人でよく歩いた道に着いていた。

目の前に現れた歩道橋を上がっていくと、何度目かのデートの帰りのことを思い出す。

友達としてしか見られていない気がして歩道橋を歩いていたら、彼が追いかけてきて強く腕を掴まれた。

『あのさ、』

息が上がっていて、上ずった焦り混じりの声。

『どうしたの?』

『……月が綺麗だよ』

ふと見上げると、満月があった。

『そうだね』

『いや、だからさ……』

私が首を傾げると、
彼はすねたような甘えた瞳で
『月が綺麗なだけ』
と囁いて唇が触れた。

今まで同じ空間にいてふいに目が合ってしまうのは、私だけが見ていたからではないのだと知った。

『そんなこと言うと思わなかった』

『うん』

『……君がそういう言い回しが好きだと思った。
よく本読んでるし』

本読んでるからってそんな……と笑い飛ばしそうになって、彼のすねたような照れた顔を見て思い直す。

堪らなく愛おしかった。

『私も好きだよ』

『普通に言うなよ。俺、恥ずかしい奴じゃん』

『あなたはその方が好きだと思って』


彼も最初驚いた顔していたけれど、やっとくしゃっと笑った。

そして告白するために満月を待っていたと言われて、呆れたふりをしたけど、本当は涙が出そうなくらい嬉しかった。

そんな他愛のないやりとりをして笑いながらゆっくりと手をつないだことなんて、遠い昔のことのようだ。
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