棘
ふっと小さくふき出すと、すれ違う人にちらりと見られた。
慌てて咳き込むふりをしたら、本物の咳になって涙が出て胸をさする。
そう、好きなだけだった。
正反対だから一緒にいて楽しかった。
彼だから一緒にいて幸せだった。
でも、少しずつ慣れていって、日常になって、自分を受け入れてほしいと思うようになってしまったのはきっとお互い様だった。
お互いきっと無理をしていた。
でも、好きだから無理していたのだとも分かっている。
だから、きっとどうしようもなかった。
それでも、幸せだった。
やっと咳が収まってきて深呼吸を3回する。
空を見上げると、半月が浮かんでいた。
これから欠けるのか、それとも満ちるのか。
どちらにしてもいつかは必ず満ちていく。
私の胸に刺さったまま抜けない棘が、月明かりにそっと包まれて少し柔らかくなった気がした。
終
慌てて咳き込むふりをしたら、本物の咳になって涙が出て胸をさする。
そう、好きなだけだった。
正反対だから一緒にいて楽しかった。
彼だから一緒にいて幸せだった。
でも、少しずつ慣れていって、日常になって、自分を受け入れてほしいと思うようになってしまったのはきっとお互い様だった。
お互いきっと無理をしていた。
でも、好きだから無理していたのだとも分かっている。
だから、きっとどうしようもなかった。
それでも、幸せだった。
やっと咳が収まってきて深呼吸を3回する。
空を見上げると、半月が浮かんでいた。
これから欠けるのか、それとも満ちるのか。
どちらにしてもいつかは必ず満ちていく。
私の胸に刺さったまま抜けない棘が、月明かりにそっと包まれて少し柔らかくなった気がした。
終