月がてらす道
と歩きながら振り返ったみづほに言われ、自分が、単純に同じ方向へ行くと言うには近づきすぎていたことに気づく。
「え、ああごめん」
体半分ぐらいの距離を余分に取ってから、尋ねる。
「毎日こんな遅いのか」
「最近はそうでもない、けど。今日はシステムチェックの当番だった──」
と、続けかけた言葉を突然途切れさせ、何かに気づいたようにみづほは横を、正確にはやや斜め後ろに視線をやった。
「?」
尚隆が首を傾げるのとほぼ同時に、いきなり、みづほが身を寄せてきた。何事かと仰天していると、なにやらささやき声がする。悪いけど、と聞こえた。耳をすました。
「……このまま、駅まで一緒に行ってくれる?」
「かまわないけど、なんで」
「後で話すから」
みづほはそう言ったが、やはり気になる。彼女が見ていた方向に、不自然でない程度に顔を振り向けると、街路樹の陰にさっと隠れる人影があった。かろうじて届く街灯の光で、うっすらと見えた顔には覚えがある。あれは。
──本庄さん?
訝しく思った。8階の営業エリアは、席こそ課ごとに分かれているが、全体は壁のないひとつの区画だから、別の課でも人がいればわかる。尚隆が仕事を終えた時には、たしかに誰もいなかった。
ということは、退社してからずっと、あそこにいたのだろうか……みづほを待って?
じめっとした何かを感じて、少し不快な気持ちになる。
だがあえてその場では口に出さず、触れんばかりの距離に近づいたみづほとともに、駅への道を歩きだした。
5分も歩くと、商店や飲食店の建ち並んだ通りに出る。そこに入ってようやく、尚隆はみづほに尋ねた。
「さっき見てたの、もしかして本庄さん?」
「……そう」
「なんかあったのか?」
セミナーの時の態度といい、さっきの様子といい、気にせざるを得ない。みづほの受け答えからしても、何かしらの迷惑行為が、他にもあったのではないか。
みづほは言いづらそうにしていたが、後で話すと言った以上は黙っていられないと判断したのだろう、やがて話し始めた。
「……ちょっと、つきまとわれてて、最近」
「最近って」
「半年ぐらい、かな」
「半年?」
それは「ちょっと」と言えるような期間なのだろうか。少なくとも尚隆にはそう思えなかった。
「もしかして今日みたいに誘ってくるとか?」