月がてらす道
相手を、好きでなかったわけではない。こんな人と結婚したら穏やかに暮らせるだろうな、なんてことを考えもした。
けれどどうしても、いくら迫られても、相手に抱かれる気にはなれなかった。
自分が、男性と付き合っても一線を越えられない──「できない女」だなんて、思いもしなかった。
みづほの状態をそんなふうに表現したのは、当時付き合っていた、件の相手だった。何ヶ月経っても「それ」に関しては遠ざけようとする、迫っても拒み続けたみづほに対して、言ってみれば逆ギレしたのだろう。侮蔑混じりの視線と声でそう評したのだ。そして去っていった。
思ってもみなかったショックの強さで、しばらくは仕事に行くのも憂鬱だった。相手に会社で会ったらどんな顔をしていいのかわからなくて。勤務フロアが違ったから実際はめったに遭遇することはなかったけれど、エレベーターや仕事上で顔を合わせるとやはり気まずかった。
それ以来、社内の男性とは一定の距離を置くことにした。どれだけ誘われても個人的な付き合いには踏み込まずにいようと。
そう心に決めた頃、大学でわりと仲の良かった友人から、合コンの誘いを受けた。正直あまり気は進まなかったが、外の人で付き合える人が見つかれば変わるかもしれないと思って参加してみた。
初めての合コンは思ったより楽しく過ごせて、その後も何度か、時には幹事役の友人に頼んで参加した。気の合いそうな男性と毎回出会えるわけではなかったが、合コンから遠ざかるまでに合計3人と、数ヶ月から半年ほどの交際をした。
……しかし、結果的には誰とも、親密な関係にはなり得なかった。実際に付き合ってみるとどの相手に対しても、一緒にいて楽しいと心からは思えなかったり、学生時代に経験したようなときめきを感じるには至らないままだった。
それでもある程度付き合いが続くと迫られる時は当然あって、そのたび努力はしたものの、どう勇気を出そうとしても体がついていかなかった。業を煮やした相手が強引なやり方に訴えて、結局は触れられるのすら拒むようになったこともあった。
そんな女にいつまでも付き合える男性がいるはずもなく、皆、愛想を尽かして自ら去っていった。申し訳ないとは思ったが、未練や後悔は不思議なほどに感じなかった。