月がてらす道
ある程度ブランクがあると、処女でなくても痛みを感じることがあるという。セカンドバージンと表現するらしい。
みづほはどうだったか。……確かに、入ってくる時には少し痛かったが、違和感の延長のようなレベルで、初めての時のように腰まで響く痛みは感じなかった。その違和感も気がつけば消えていて、じわじわと押し寄せる快感の波に、理性が少しずつさらわれていった。
その後のことは、よく覚えていない。正確に言えば、あまり思い出したくない。思い出すのが恥ずかしかった。そのくらい、最中は興奮していた──彼に抱かれることに没頭していた。大胆なふるまいをしてしまった気がするし、平時では絶対に言えないようなことも、言ってしまっていたように思う。
……彼の名前を、何度も呼んでいたことも。
そして何度となく、名前を呼ばれたことも。
思い返すと頭と心にじわりと火がともる。体の奥底が震えて、どうしようもない気持ちになってくる。
尚隆がまた欲しくて、たまらなくなってしまう。
だけど、そんなことは言えない。表に出すわけにはいかない。だって。
尚隆は、みづほを好きなわけではないのだから。
社内サーバのメンテナンスを頼んでいる業者との定期打ち合わせが押して、昼休みが遅くなった。
課長に断りを入れて、40分時間をもらい、外へ出る。本当は1時間ゆっくり行ってきていいと言われたのだが、月末が近くていろいろとやることがあるため、早めに戻ろうと思った。
運良く、会社のビルから近い定食屋が、並ばずに済みそうだった。小綺麗な構えの扉を開けて、中に入る。
「ご相席でもよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
並ぶ列こそなかったものの、店内はほぼ満席である。近いのと、リーズナブルなのに美味しい定食とで、近隣の飲食店の中では人気なのだ、仕方ない。
……だが、他の店に行かなかったことを、みづほはすぐに後悔した。案内された席に座っていた人物のせいだ。
「すみません、ご相席お願いできますか」
店員の女性が訪ねている人物に、背後から念を送る。断って、お願いだから。
いいですよ、と振り返らずに答える相手の声に、みづほは回れ右をして店を出たくなった。しかし行動に移す前に店員は去り、相手は今になって振り返り、こちらを見た。
「──────」
「………………」