月がてらす道
戸惑いを隠せないながらも、そう言ったみづほの言葉が、急に途切れた。自分が抱きしめたからだ。
すぐ後ろで、扉が音を立てて閉まる。鍵を閉めなければ、と一瞬思ったものの、そうするために動く気にはなれなかった。今はただ、みづほの温かい体に、優しい心に触れていたかった。
当然ながら、みづほはいきなりの事態に体をこわばらせている。しばし後、我に返って身じろぎし、尚隆の腕から逃れようともがいた。その動きを左腕で封じながら、右手を彼女の頬に添える。
「────、────」
唇も、きっと冷たかったに違いない。重ねた瞬間のみづほの驚きには、それも含まれているように思った。だがそれ以上にもちろん、今の状況自体に驚愕しているだろう。
そうだとわかっていながらも、やめようとはしなかった。思わなかった。彼女が、みづほが、欲しかった。
唇のかすかな震えが、止まった。だらりと下げられていたみづほの腕が、おそるおそるといったふうに、尚隆の背中に添えられる。
「…………鍵、閉めてくれる?」
ややあって唇を離した時、みづほは言った。
受け入れるサインなのだと、尚隆は判断した。
今夜ほど、一人の女を欲しいと思ったことはかつてなかった。彼女を1秒でも多く、少しでも強く感じたくて、何度も繰り返し求めた。みづほが、感覚的にはともかく経験上では慣れていないと前の時に気づいてはいたが、衝動を抑えられなかった。
そしてみづほは、慣れていないはずなのに、こちらの求めに適宜応じてくれた。つながるたびに深くなる充足感、高まる昂揚は、果てがないようにさえ感じられた。
……そうして3度、彼女とつながり。
さすがに息が上がって、二人ともしばらく横たわって休んでいた。だが息が落ち着くと、またもや欲しくなる。回数もわからなくなるほど重ねたみづほの唇を幾度かついばみ、肩から背中の肌をするりとなぞってから、腰を引き寄せる。
みづほがひゅっと息を吸い込んだ。
「ま、まって」
二の腕に添えられた彼女の手のひらからは、制止の意志が伝わる。
「……ちょっと、もう、無理」
声に色が付くなら、きっと真っ赤になっていたろう。そういうふうに思えるような、恥じらいでいっぱいの声だった。
そんな様子にも、尚隆の心にはじわりと火がともる。
──可愛い。