月がてらす道
愛おしさが胸に、体全体に満ちる。みづほのまぶたに、頬に、唇に飽きることなく口づけた。みづほは最初こそ、もじもじと恥ずかしそうに避ける仕草をしていたが、やがておとなしく、雨のように続くキスを受け入れた。
あれだけ抱き合ってつながっても、みづほの中にはまだ、恥じらいが存在している。その事実がたまらなく可愛らしく思えた。
もう一度、は彼女のために止めておくことにしたが、体を引き寄せた腕は解かない。体温を、匂いを、まだしばらくは感じていたい。
「……なにか、あったの」
腕の中でみづほが尋ねた。行為の合間にも何度か、何事か言いかけていた。たぶんそう聞きたかったのだろう。
夜に、前触れもなく訪ねてきて、なんの説明もなしにただ繰り返し求めた。彼女でなくとも、誰であろうと疑問に思うのは当たり前だ。……だが、説明する気にはなれなかった。
今この時、みづほに対して、澄美子の話はしたくない。
「──何もないよ」
だから、そう答えた。みづほは顔を動かして、こちらに目線を移したようだった。おそらく、重ねて問いたかったのだろうけど──尚隆が言いそうにないと思ったのか、実際には2度目の問いは発されなかった。
代わりに、頭が再び動き、肩にすり付けられる。
そして目を閉じたようだった。……しばらくして、穏やかな寝息が聞こえ、呼吸がかすかに肌に当たる。
先ほどの問いも声が揺れていたし、相当疲れているに違いない。そうさせたのは自分だから、多少の後ろめたさ、申し訳なさは感じるものの、間違ったことをしたとは思っていなかった。
自分の心に嘘をつかない行動をした。それを後悔してはいない──彼女もそうだと、思いたい。
眠るみづほの耳元に、唇を近づける。
「好きだよ、みづほ」
ささやいて、耳たぶに口づけた。かつてないほどの愛しさに、尚隆の心と体は満たされていた。