月がてらす道
【10】明らかになる真実


 「……あ」
 「──ああ」
 妙なところで、半井専務に会ってしまった。
 全国的にまだ梅雨真っ最中ながら、季節は夏の色を強めてきた、6月の終わり。外回りが一段落つき、すぐ会社に戻るか否かを同行の森宮と話しながら歩いていた時に、なぜだか専務に遭遇した。ここは会社に近い駅前商店街だから、社内の誰がいようと不思議ではないと言えばそうなのだが、仕事は専用車で、通勤は自分の車で行き来する半井専務にとっては、珍しいことのような気がする。
 「ご苦労様です。どうなさったんですか、こんな所で」
 正直、話しかけにくい気持ちはあったが、立場上なにも言わずに通り過ぎるわけにもいかない。隣の森宮の、好奇心でいっぱいの視線を感じつつ、尚隆は疑問をそのまま尋ねた。
 「車が車検中でね、今日は電車移動なんだよ。
 ……ちょっと時間、もらってもいいかな」
 ためらいがちに言われ、不意をつかれた気持ちだったが、「はい、大丈夫です」と二つ返事で応じた。
 「すみません森宮さん、先に戻っててください」
 「わかった。課長には伝えとく」
 専務の手前、好奇心をあからさまに出すわけにもいかないと思ったのだろう、森宮は短く言って離れていく。十数メートル行ったあたりで、一度振り返ることは忘れなかったが。
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