月がてらす道
「こちらこそ、若い二人を引き裂くような真似をして、本当に申し訳ない。そう伝えておいてほしいと、澄美子も」
「いいえ」
「彼女は、元気なのかい」
「3月の終わりに会った時は。今は、会ってないので」
「どうして」
「……ちょっと、考えていることがありまして」
それ以上は述べなかった尚隆を、専務は追及してこなかった。口調から、他人が口を出すべきではないと判断してくれたのか。
さよなら、とみづほは最後に言ったが、彼女の言葉通りにしてやる気はこれっぽちもなかった。何を思ってあれほどに尚隆を拒絶するのか、正直に言うならわからない。だがあの頑なさには、何らかの理由があるはずだ──そして理由の中には、尚隆の気持ちが本気だと受け取られていない、という問題がかなりの割合で入っているような気がしていた。
みづほはいまだに、尚隆が、体の相性だけで彼女を求めていると思っているふしがある。始まりがそうだったから完全否定をできないところであるのがつらい話だが、今は断じてそれだけではない。
そうだとわかってもらうためには、思い切った手段に出る必要がある。今は、その準備をしている段階だった。
「足を止めてしまってすまなかったね、そろそろ戻ろうか」
「あ、はい」
専務に促され、使っていたテーブルを片づけて店を出る。
……あと半月もすれば、準備はどうにか完了する。それからはなるべく早く、みづほに会いに行くのだ。今度こそ自分の本気を知らしめるために。