月がてらす道
【2】それぞれの戸惑い
「須田さん、ちょっといいかな」
「はい。何でしょうか」
パーテーションの向こうから顔を出したのは、システム課のボスである課長だった。2・3の確認事項の後、来週開催のセミナーについて尋ねられる。
「配布する資料の原稿はできてます。もう一度確認なさいますか?」
「そうだな、念のためよろしく」
「わかりました、後でメール送付します」
課長がうなずいて去り、再び一人になったみづほは、いったん自分の席へ戻った。ウインドウをメールソフトに切り替え、課長のアドレスに資料のデータを添付して送信する。ついでに届いていた数通のメールを読み、急ぎの件とそうでもない件に振り分ける。ひと通り終えて、ふうと息をついて、ディスプレイにうっすら映る自分の顔をぼんやりと見た。
そうしてまた、思考が数日前に戻っていく。あれからの何日かずっと、事あるごとにそうであるように。
あの日、尚隆がシステム課を出ていく音を背中で聞いて、ジャスト10秒ののち。みづほは椅子の背にもたれかかり、天井を仰いで思い切り息を吐いた。
覚悟はしていたにもかかわらず、めちゃくちゃ緊張してしまった。
彼には気づかれなかっただろうか──なんとか、予定していた通りの態度で接したつもりだけど、うまくいっていたかどうかは正直自信がない。