月がてらす道
こんなに長い時間、いや長い日にちをかけて育んだ命を、この世に産み出してくれた彼女への、感謝の思い。汗で髪が貼りつき、疲れ切った表情にもかかわらず、写真の顔が尊く思えた。
震える手で握っているスマートフォンが、また新たに着信音を鳴らす。今日3つ目のメッセージだった。
『名前は、考えてくれましたか?』
そうだった。連絡を取る中で、子供がおそらく女の子であることも聞いていて、できれば尚隆も名前を考えていてほしい、と言われたのだった。みづほの母が考えたことにして、候補の一つとして提案するからと。
なので、非常に照れくさい思いをしながら『赤ちゃんの名付け・女の子編』といった本を買って、1週間ほど真面目に考えた。いくつか候補を書き出して再度悩み、みづほの娘にふさわしいと思うものを、ひとつ決めている。
深呼吸をしてから、返信を打ち込み、送信した。
みづほの母からは『わかりました』と短く返ってきた。
数日後、LINEで送られてきたのは、名前が決まったという報告メッセージ。
『みづほが、一番しっくり来ると言って決めました』
──凛。
それは、尚隆が考えて伝えた名前だった。