月がてらす道
みづほはそう言ったが、それにしても小さいように思えてしまう。兄の子供はもっと大きかったような気が……? とはいえずいぶん前に1・2度しか経験していないし、あちらは男だから、もしかしたら性別の体格差があるかもしれない。
すやすやと、何の不安もない様子で、静かに眠る赤ん坊。柔らかな髪はほぼ真っ黒で、たぶん、みづほに似たのだろうと思う。自分は少し茶色がかっているから。
正直、顔立ちがどちらに似ているかは、よくわからない。だがこの年齢(正しくは月齢というのだろうか)にしては、目鼻立ちははっきりしているように見えて、有り体に言ってすごく可愛らしい。……あるいは、自分の子供だと思うからこそ、そんなふうに感じるのか。
と。
ぎこちない抱き方に違和感を感じたのか、赤ん坊がぱちりと目を開いた。直後、くしゃりと顔をゆがめ、何秒も経たないうちに大泣きを始める。
焦って、落とさないように気をつけるので精一杯だった。
「ごめんなさい、たぶんミルクだと思う。すぐ作ってくるから、悪いけどちょっと待ってて」
そう言って、呼び止める間もなくみづほは、足早に部屋を出ていった。遠ざかる足音は、泣き声にかき消されてすぐに聞こえなくなる。
そういえば兄の子供を抱かせてもらった時にも、こんなふうに大泣きされたのを思い出した。自分は子供に好かれないのだろうか? 気づきたくない事実に気づいてしまったような気もするが、今、そんなことを考えている場合ではない。
ともかく落としてはいけない。座り直し、赤ん坊の、特に頭がずれないように気をつけながら、抱き直した。それでもまだ娘は泣きまくっている。母親が離れていることがきっとわかるのだろう。
すぐに戻ってくると言ったみづほは、何か予想外の事態があったのか、なかなか戻ってこない。焦るなと思いつつも、赤ん坊の泣き声には反射的に落ち着かなくさせる作用があるようで、どうにも心もとない気分を抑えがたかった。
考えに考えて、相当にうろ覚えながら、子守歌を歌ってみる。かなりぎこちなく揺らしながら。音痴ではないと思っているが、ろくに覚えていない歌を歌うのはこんなに冷や汗をかくもの、という経験を初めて今している。音も調子っぱずれのような気がしてきて、ますます落ち着かない。