俺様王太子に拾われた崖っぷち令嬢、お飾り側妃になる…はずが溺愛されてます!?
本を読むのでも、仕事するのでも、何だっていい。夢中で何かをやっている最中は、嫌なことを忘れられるから。
けれど、なんだか無性に腹が立ってきた。今日は珍しくアルフレッドから命じられた仕事が少ないと喜んでいたら、自分は美女と名高い貴族令嬢を呼び出してお楽しみだったとは。
(これって、浮気するときは急に優しくなる夫ってやつじゃない!?)
ベアトリスはお飾り側妃であり、アルフレッドは王太子。彼は複数の妃を娶ることが法的に許されており誰と会おうが浮気も何もないのだが、ベアトリスはそんなことも冷静に考えられないほど動揺している自分に気付かなかった。
「ちょっと出かけてきます」
「え? どこに?」
サミュエルが慌てたように立ち上がる。
「散歩です」
ベアトリスはサミュエルのほうを見ることなくそれだけ言うと、離宮を飛び出した。
「さて。どこに行こうかな……」
ベアトリスは周囲を見回す。そのとき、「ベアトリスさん」と背後から呼びかける声がした。
ベアトリスは振り返る。
「ランス様?」
そこには、ランスがいた。