俺様王太子に拾われた崖っぷち令嬢、お飾り側妃になる…はずが溺愛されてます!?
「馬車を止めて!」
「それはできません。ベアトリスさんには、できるだけ殿下から離れていかなければなりませんから」
「……っ! 助けて!」
誰も助けに来てくれるわけはない。けれど、この声に御者が気付いて止めてくれれば。
そんな一縷の望みは、ランスにはお見通しだったようだ。
「無駄ですよ。この馬車は、我がブラットン侯爵家のものですから」
目の前が絶望に染まるのを感じた。
◇ ◇ ◇
ベアトリスの姿が見えないという知らせを受けたのは、セリーク公爵を含めたセリーク公爵令嬢とのお茶会の最中だった。
いわゆる〝深窓の令嬢〟であるセリーク公爵令嬢のレティシアは世間一般の評価通りの美人であり、所作も洗練されて美しい。
アルフレッドはつぶさにセリーク公爵と彼女を観察する。もしもセリーク公爵家がベアトリスへの不審な事件に関与しているのならば、なんらかのボロが出ないかと思ったのだ。
過去二回、レティシアとふたりでお茶をしたが何も怪しい点はなかった。となると娘は何も知らず、父親が糸を引いている可能性もあると思い今回は父親も呼んだのだが、思ったような反応は得られない。
(セリーク公爵家はシロか)