俺様王太子に拾われた崖っぷち令嬢、お飾り側妃になる…はずが溺愛されてます!?
念のため言っておくが、ここは王宮の敷地内にある、王太子アルフレッドが所有する彼のための離宮である。
その離宮の壁をへまで破壊する?
普通の人が聞いたら卒倒してしまいそうだが、サミュエルのこの様子から判断するにさほど珍しいことではないようだ。
「前回は廊下側に人が通れるくらい大きな穴を開けちゃって、ランスがすごく怒ってさ──」
サミュエルはそこまで言うと、ハッとしたような顔をして口を噤んだ。
「……ごめん。配慮が足りなかった」
「いえ、大丈夫です」
ベアトリスは首を振る。
あの事件のあと、錦鷹団は上を下への大騒ぎになった。なにせ、王太子アルフレッドの直轄精鋭部隊の中でも側近中の側近であるランスが、実はこれまで二度も王太子の婚約者候補を殺め、さらに今回は側妃に手をかけようとしていたのだから。
しかも動機は『アルフレッドにふさわしいのは妹しかいないから』という周囲には到底理解しがたいものだった。
過去の事件も少しずつ明らかになっているが、被害に遭った令嬢達の無念を思うと身を引き裂かれる思いだ。
ランスに跡取りもいなかったことから、今回の件でブラットン侯爵家は取り潰しになると聞いている。
「ところでベアトリス。これ」
「ん? 手紙?」
ベアトリスはサミュエルが差し出してきたものを受け取る。
(誰かしら?)
ベアトリスはそれを裏返して差出人を確認する。