俺様王太子に拾われた崖っぷち令嬢、お飾り側妃になる…はずが溺愛されてます!?
「俺も馬車で戻る。馬を頼む」
「かしこまりました」
ジャンが部下と話している声が聞こえた。その直後、馬車のドアが開き、ジャンが乗り込む。
ジャンはベアトリスの斜め前に座ると、足を組んだ。
特に何かを話すわけでもなく、馬車は王宮へと向かって走り始める。
ベアトリスは斜め前に座るジャンを窺い見た。
相変わらず、彫刻みたいに綺麗な顔だ。
「どうした?」
「団長も帰りは馬車なのだなと思って」
「……そういう気分だっただけだ。震えは止まったのか?」
「ええ」
ベアトリスは頷く。
「そうか」
ジャンはそれだけ言うと、ふいっと外を向く。
また馬車の中に沈黙が訪れた。
(もしかして、わたくしが怖い思いしたから気遣ってくれているのかしら?)
ジャンが馬車に乗り込んできた理由がそれ以外に思いつかない。会話がなくとも、今は知っている人が近くにいてくれることがありがたかった。
(いつも偉そうで厳しい上司のイメージしかなかったけど──)