俺様王太子に拾われた崖っぷち令嬢、お飾り側妃になる…はずが溺愛されてます!?
 ◇ ◇ ◇


「あれからもう一週間か」

 ベアトリスはカレンダーを眺め、ひとり呟く。
 錦鷹団では小柄な男性団員の女装による追加の囮捜査を行い、何人かの売春女性に接触することに成功した 。
 そこから明らかになったのは、モヒート商会という中堅商会がこの事件に関わっている疑いが強いということだ。

「カイルさん。こちらの調書はここに置いておいて大丈夫でしょうか?」
「あ、うん」
「それと、モビート商会についての調査書です。建物内部の地図も入手しました」
「あ、うん」

 ベアトリスの声掛けに対して全てを「あ、うん」で済ませているのは、カイル=ベイツ。ベイツ侯爵家の長男で、錦鷹団の団員のひとりだ。ベアトリスがここの錦鷹団に入るきっかけとなったあの手紙の差出人でもある。

(カイルさんって、本当に寡黙だな)

 ベアトリスはそんなことを思いながら、作業に集中するカイルの横顔を眺める。
 錦鷹団には団員が十数名いるが、主要なメンバーはサミュエルとランスともうひとり、このカイルの三人だ。そして、この三人はジャン団長の右腕的な役割も果たしている

 ただ、カイルはあまりベアトリスとは仕事で絡むことがなかったので、これまでほとんど言葉を交わしたことがなかった。今回、アルフレッドから違法薬物組織の摘発の主担当であるカイルを手助けするようにと言われたので初めて会話をしたが、すべての会話が「あ、うん」の一言で終了してしまい、人となりが全く掴めない。

(うーん。ベイツ侯爵家のカイル様って言ったら、セルベス国有数の名門貴族なのに全然社交に姿を表わさないと友人からも聞いたことはあったけれど……。想像していたタイプとは予想が違ったわ)
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