翔ちゃんは、幽霊なんて信じな、い?
 暫く歩いた後、学校から外に出て校門の前に立つ。

 すると、暗闇の中道の向こうで女の人が手を振っているのに女の子が気づいた。

「お母さんだ! お母さーん!」

 暗くて顔が見えないその人に向かって、女の子が嬉しそうに手を振る。


「1人で行けるか?」

「うん! お兄ちゃんありがとう! ついでにお姉ちゃんも!」

「ついで?! でもどういたしまして!」

「……気をつけてな、転ぶなよ?」

「うん! あ、お姉ちゃん、ちょっとこっち来て!」

「うん?」

 女の子に呼ばれて翔ちゃんから少し離れた所に座る。女の子は内緒話のように私にささやいた。

「お姉ちゃんに、コレあげる。お兄ちゃんには秘密だよ!」

「コレって……え? 小さい、ハサミ?」

 なんで私に、とか。なんでハサミ?とか疑問が浮かびすぎて適切に質問出来ないでいると、女の子はそんな事全く気にもせず続ける。

「あのね、大きいと危ないから小さくしち
あのね、大きいと危ないから小さくしちゃった!」

「へ?  どういうこと?」

 子ども特有の不思議な説明に益々頭にハテナが浮かぶ。

「……私優しくしてくれる人には優しいけど、イジワルな人にはイジワルなの」

「うん?」

「それでね、四次元ババはイジワルだったの!」

 四次元ババはハサミを持つ怪談だった。つまり。

「も、もしかしてコレ戦利品……?」

 女の子が質問に答えず笑う。

「……あのね怪談もたまに交代するんだよ?」

 微妙にズレた回答というか遠回しな回答が、肯定だと言うことに気づいて、背筋に薄寒い物を感じる。

 いや別に私達に対しては悪意ないっぽいから! ともらったハサミを思わず放り出しそうになるのをギリギリで抑えると、女の子は神妙な表情をした。

「……気をつけて、カミサマはホンモノだよ」

「本物?」

「うん、でもあなた達なら大丈夫だよ」

 女の子はニコッと笑うと、そのまま走って行きお母さんに抱きついた。

「……良かったな」

「……え、あ、そ、そうだね!」

 先程のやりとりを思い出して、しどろもどろしてしまう。

「……何動揺してんの? なんか話してたのか?」

「いやっ、何でもない、何でもないよ?!」

 と、翔ちゃんからハサミを隠そうとした時だった。

「……ッ」

 翔ちゃんが顔を抑えてその場に座り込んでしまった。

「翔ちゃん?! ゴメン! 大丈夫?! 私当たっちゃった?!」

「……いや違う。なんか一瞬、額に痛みが走っただけだよ。お前のせいじゃないし、もう治った」

「え、でも……」

「大丈夫だよ、ほら俺達も帰ろう」

 そう言って、いつも先を歩く翔ちゃんが今日は珍しく待っててくれる。

いつもの私なら、大喜びするはずだけど、なぜだか、その時胸騒ぎがしていた。

……三不思議もいよいよ終わりを迎える。


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