翔ちゃんは、幽霊なんて信じな、い?
それは約1年前。
それなりに愛されて育ってきた私が、初めて受けた明確な否定と拒否だった。
『はぁ……』
うるさいくらいのセミの声を聞きながら、木陰で何度目かわからないため息をついた。
少し離れた熱砂の運動場からは、体育大会のフォークダンスの練習の音楽が聴こえてくる。
自分の汗ばんだ手を見る。
そうしてまたしても海よりも深いため息を吐いた。
今日は秋の体育大会に向けてのフォークダンスの練習がある日だった。
クラスメートは『男子と手繋ぐなんていや』なんて口では言いながら、皆ソワソワと楽しみにしていた。
私も例外に漏れず浮かれていた。密かに心を寄せていたクラスメートの七海君とペアになれたらと思ってたのだ。
その時の私は自惚れ屋で、人の好意を拒否されるなんて夢にも思わない頭の中お花畑な人間だったのだ。
七海君は清潔感のある、汗臭さとは無縁の爽やかイケメンだ。
何故好きだっかはもう思い出せないけど、確かに私の毎日は、七海君と話が出来ると季節は冬でも気持ちは常にこの世の春だったのだ。
だから偶然にもペアになれた時は、顔に出さなかったけど凄く嬉しかった。
でも。
七海君は私が思うよりも綺麗好きで、シビアだった。
『うわっ手汗?! 汚っ、マジ無理』
言われた言葉を頭の中で復唱すると惨めさが一層身に染みた。
手を繋いだ瞬間、勢いよく手を放り出された。
直前に汗拭きシートで拭き気をつけてたけど、緊張には追いつかなかった。
友達に言って、怒って笑い話にでもすれば良いんだろう。
でもそんな気になれなかった。
自分が他人から拒否されるだけの事をしてしまったという事実が酷く惨めだった。