翔ちゃんは、幽霊なんて信じな、い?
本気でわからなくてそう尋ねると、翔次郎君は一瞬哀しげな顔をした。
でもすぐに余裕そうなちょっと意地悪そうな顔に戻って、指を自分の口元にあてた。
『ないしょ』
語尾にハートがつきそうに可愛く言われる。
普通の男が言ったら寒くて気絶しそうなそれが、翔次郎君だと堂にいっていて、それは。
今日の私の惨めさとか、自分の身の程なんて、吹っ飛ばしてしまうのには十分だった。
だから、そう本当についうっかり。
『……好きだ』
初めて海を見た子どもが綺麗だとくように、一目惚れが思わず口からこぼれた。
あ、言ってしまった、と思った時にはもう遅かった。
『惚れっぽ』
『!!聞こえてた?!』
『そりゃ聞こえるだろ。お前声おっきいし、手繋いでるんだし?』
繋いだ手をふりふりと振りながら翔次郎君が悪戯っぽく笑う。それは目眩がしそうなくらい可愛い光景だった。
『あのあのっ!翔ちゃんって呼んで良いですか?!』
『急にどうした? キャラ違うけど』
『こっちがいつもの私です!』
『ああ、そう。ま、元気が出たなら何よりだか?』
『はい!!』
鼓動がその存在を主張するように高鳴る。
恋はするのではなく落ちるものだと聞くけど、わかった気がした。
『ま、これから当分よろしく。えーっと?』
『真名です! よろしくね翔ちゃん!』
返事の代わりに翔ちゃんがもう一度、私の汗をかいてしまった手を躊躇いなく握手みたいにギュッと握ってくれる。
何だかこの世の春どころか、季節の良いところ取りが一周した気分で嬉しくなって、私ももう一度手を握り返した。