翔ちゃんは、幽霊なんて信じな、い?
カミサマ(後編)
思い出と共に、ワルツが月の下で静かに幕を下ろす。
埃が舞う音楽室はキラキラと月明かりの余韻で輝いてる気がした。
気づくと頬が濡れていた。
私、何やってるんだろう。
私がしたのは、自分の好きだという気持ちを証明するために、翔ちゃんの触れられたくない部分に無理矢理踏み込んだだけだ。
秘密や心の柔らかい部分を無理矢理暴いて共有することが、仲の深さの証明なんかになりっこないのに。
あの時。
翔ちゃんは私の気持ちに寄り添ってくれた。
気まぐれかもしれない。
でもそれが嬉しくて、眩しくて、傷ついてささくれた心に、光が射し込んだみたいで
忘れられなくて好きになった。
いや、それは多分、ただのきっかけだ。
多分、どこでどう会ってても、太陽が夜に出ることになって、月が朝にいすわって、どんな運命が回ろうとも。
私はきっと、翔ちゃんに惚れていた。理由なんて、もはやわかんない。どこが好きかも説明出来ない。
全部だ。全部好きだ。
好きだから、大好きなんだ。
「謝らなきゃ」
自分の気持ちが伝わらないことが悔しくて、酷い事を言った。
もしかしたら許してもらえないかもしれない。
翔ちゃんに嫌われたという事実を本人に突きつけられたら私の世界はきっと一瞬で終わる。
お母さんもお父さんもおばあちゃんもおじいちゃんも、親友も、グループの皆も、この傷は一生癒せない。
でも翔ちゃんが私の世界一馬鹿でアホでどうしようもない嘘まみれの八つ当たりの言葉で、傷ついたままでいる方がずーっとずっとずっとずっと嫌だ。
会いに行かなきゃと思った。
その時、何かが激しく落ちる音がした。
「何今の音……?!」
音の方向は校舎の下の方だ。
何かが沢山倒れるような音が辺りに響く。
「もしかして、翔ちゃんに何かあったんじゃ……!」