翔ちゃんは、幽霊なんて信じな、い?
……そして冒頭に戻る。
「翔ちゃーん! お願いだから起きてぇえ」
画面から出てきた手(!)に更に画面奥底に足を引っ張られるのを、なんとか耐え翔ちゃんを呼ぶ。が、起きてくる気配は一向にない。
そういえば翔ちゃんは一度寝ると、周りがどんだけうるさかろうが中々起きず、仮に起きたとしても、夢遊病の様に物凄い寝ぼけてたっけ。
もしやこれ詰んだのでは。
自分の馬鹿みたいな悪知恵でこうなってしまったかと思うと不甲斐ないやら何やらで涙が出てくる。
「……翔ちゃーん」
「何やってんの……?」
聞こえてきた声に顔をあげる。
髪をわしゃわしゃと気怠げに掻き分け、見るからに寝惚けた状態の翔ちゃんがお化けパソコン……私の前に立っていた。
「じょうぢゃん……! あっあのね、じょうぢゃんをだじぬいでぱぞごんでげんざぐじようどじだら、あじびっばられて~」
「……何言ってるか全然わかんねーけど、とりあえず引っ張りゃ良いのか?」
大きなアクビを一つして、翔ちゃんはその白くて綺麗な手を差し出してくれる。
掴めという意味で差し出されただろうその手をとろうとして、躊躇う。そうだ、私、今めっちゃ手汗かいてる……!これは一大事だった。
いや、フツーに考えたら、訳わかんない場所に引っ張り込まれてる状態で手汗だのなんだのと気にする方がおかしいんだけど、好きな人の、翔ちゃんに恥をさらす事はそれと同等かそれ以上に嫌な事だった。
「おい、拳握るなって。掴みにくい」
「だ、だって、汗がっ」
「んな事言ってる場合か? ほら」
「……うぅ」
ゆるゆると結んだ拳を緩めた瞬間、翔ちゃんが私の湿った手をあっという間もなく掴んで、グッと引っ張ってくれる。
……ああ、そうだ。
翔ちゃんはそういう人だった。その辺の女の子よりも美しくて、ぶっきらぼうに見えて、それなのに誰よりも優しいんだ……。
思わず感動の涙が出そうになる。
しかし。
「……ダメだな。これ以上は引っ張れない」
「嘘ーッ?! 翔ちゃんの非力!! 儚げイケメン!! 私の感動を返して!」
「仕方ないだろ、もうお前ココで暮らせ」
「諦めが早い! でももしそうなったら毎日会いに来てね翔ちゃん!!」
「イヤだけど」
「ひどい! じゃあ2、3日に1回!!」
本筋と逸れた交渉に飽きたのか、翔ちゃんが私の後ろを通り越した何処か遠くを見つめる。そしてあっ、と小さく呟いた。
「え? 何?」
「……お前、ちょっと一人で頑張れるな?」
「しょ、正直もう手が疲れてきて翔ちゃんに手離されたら引きずり込まれそうだけど……あ、でも、翔ちゃんがちゅーしてくれたら頑張れるかもー……なんちゃって★」
この期に及んで浅ましい私を許して欲しい。
翔ちゃんが心底呆れた様にブリザード級の視線を私に向ける。
しかし翔ちゃんは姿勢を傾け、私にそのまま顔を近づけた。