似非聖女呼ばわりされたので、スローライフ満喫しながら引き篭もります
その19
オリヴィアにドレスを贈るという、エフラムの目を黙って見据えたまま沈黙は流れた。
「……」
「オリヴィア……?」
「エフラム様……そこに気付いてしまわれたのですね」
「……え?」
神妙な面持ちでエフラムを見たオリヴィアは意を決したかのように、くるりと背を向けてエフラムに純白の天使の羽を見せるようにした。
「実は言ってなかったんですが、この羽……なんと、服を貫通しているのです!!」
「えええ!?」
驚愕の事実を聞かされ、エフラムは狼狽した。
オリヴィア曰く、背中にある羽は服を突き破る事なく、布をすり抜けているのだとか。
「なのに、壁や物には当たるという意味不明の仕様!そういう所を含めてほんっっとに不気味なのです!それに、服がオッケーならば何故布団やシーツはダメなのでしょうか!?何故布団を貫通してくれないのでしょうか!どうして私を快適に眠らせようとしてくれないのか、謎は深まるばかりなんです!」
ドレスをプレゼントしようと思ったら、何故か羽についてのサイエンスミステリーに突入してしまった。
困惑するエフラムを横目に、クリストファーは腕を組みながら考えた。
「う~ん、やはりその羽は魔法を帯びた物と考えるのが普通ですよね」
「まぁ、生物学的に突然生えてくるなんてあり得ませんから、羽はきっと魔法で構成されているのでしょう」
そうグレンが言った途端、オリヴィアは衝撃を受けたのち、ブツブツと呟き始めた。
「魔法……まじない……呪い…やはり呪いなのですね!?皆さんもそう思いますよねぇ!?」
始めは独り言かのように思われたが、皆に答えを窮してくる。なかなか難しい問題だが、グレンが顎に手を当てながら思索した。
「えぇと、専門分野ではないので詳しくは分かりませんが、きっと光魔法なのではないでしょうか?宗教画に描かれる聖女も羽が生えていましたし」
「そうですよ!そのような美しい天使の羽、決して呪いなどではあり得ませんっ、むしろ祝福ですよ!とてもオリヴィア嬢にお似合いでお美しい!」
グレンとクリストファーが言うが、オリヴィアも引かない。
「いくら光魔法でも使い方によったら呪いも同然なのです!
それに他人に羽を生やす魔法なんて聞いた事ありませんっ、きっと誰かが嫌がらせで、私の安眠を妨害するために、やった事に違いありません!だって、寝る向きが限られてしまいますもの!」
「嫌がらせの目的が地味ですね……」
見た目は派手だけど、とグレンは心中で一人ごちた。
「お嬢様は普段、かなり長時間お眠りになられますから」
一気に羽について盛り上がった面々に、置いてけぼりを食ってしまったエフラムだが、長い事沈黙しながら考えたのち、意を決して口を開いた。
「お、オリヴィア……」
エフラムを全員が注目した。
「ドレスの件はよく分かったよ。では、別の物を贈らせて貰えないかな?これは僕の自己満足だから、素直に受け取って貰いたい。贈り物は考えておくから。
あと……それとは別に、実はオリヴィアにお願いしたい事があって、来月に王宮で開催される舞踏会へオリヴィアに僕のパートナーとして出席して欲しくって。夜会用のドレスは勿論僕がプレゼントする」
エフラムは何がなんでもオリヴィアにプレゼントしたかった。
「夜会はお断りします」
「………」
だが夜会は断られた。
「だって、夜会ですよ?沢山の人の中に、私なんかが紛れ込んでいたら、きっと迷惑だしこの羽が当たってしまいます。きっと多くの人を羽でしばき回します」
「人に当たるのが怖いんだね、大丈夫ずっと僕の側にいれば……」
王子であるエフラムの側にいたら、流石に人々も気軽に群がれないはずだ。それにオリヴィアの事は、何がなんでも自分が守り通すとエフラムは心に決めている。
「違いますエフラム様、羽でなぎ倒すのが私。羽でなぎ倒されるのが周りの貴族です」
「………」
オリヴィアの無駄に堂々とした物言いは、むしろ薙ぎ倒したがっているのではないかと思うほどだった。
「もしかしたらエフラム様の事も羽でしばき回してしまう可能性すらあるのです。むしろ踊っている最中など、ターンをしようものならエフラム様にクリティカルヒットです」
「僕の事はいくらでもしばき回してくれて構わない!オリヴィアにしばかれるなら、僕は本望だ!」
むしろ王子が『オリヴィアにしばかれるのはご褒美です』と言いださないか、全員がハラハラしながら固唾を呑んで見守った。
「エフラム殿下…変態でドMの可能性も……」
「ローズ殿……」
耐えきれず、ボソリと呟いたローズをグレンは小声で制した。
「どちらにせよ、今の所夜会には出るつもりは無いのです」
「そうか……でももし……ほんの少しでも気が変わったら……すぐにでも言って欲しい」
寂しげに微笑むエフラムをオリヴィアはジッと見つめたのち、にこりと微笑んだ。
「分かりましたわ」
「ありがとう!今はその返事が貰えただけで十分だ!僕はオリヴィア以外にエスコートするのは、妹だけだと決めてたんだ。だから気が変わったらすぐにでも言って欲しい」
夜会でのエフラムはこれまで自身の妹である、マリエッタ王女しかエスコートをした事がない。だからそんなエフラムが妹姫以外をエスコートしたとすると、周りは勘ぐるだろう。エフラム王子の相手がやっと決まったのだと。
「……」
「オリヴィア……?」
「エフラム様……そこに気付いてしまわれたのですね」
「……え?」
神妙な面持ちでエフラムを見たオリヴィアは意を決したかのように、くるりと背を向けてエフラムに純白の天使の羽を見せるようにした。
「実は言ってなかったんですが、この羽……なんと、服を貫通しているのです!!」
「えええ!?」
驚愕の事実を聞かされ、エフラムは狼狽した。
オリヴィア曰く、背中にある羽は服を突き破る事なく、布をすり抜けているのだとか。
「なのに、壁や物には当たるという意味不明の仕様!そういう所を含めてほんっっとに不気味なのです!それに、服がオッケーならば何故布団やシーツはダメなのでしょうか!?何故布団を貫通してくれないのでしょうか!どうして私を快適に眠らせようとしてくれないのか、謎は深まるばかりなんです!」
ドレスをプレゼントしようと思ったら、何故か羽についてのサイエンスミステリーに突入してしまった。
困惑するエフラムを横目に、クリストファーは腕を組みながら考えた。
「う~ん、やはりその羽は魔法を帯びた物と考えるのが普通ですよね」
「まぁ、生物学的に突然生えてくるなんてあり得ませんから、羽はきっと魔法で構成されているのでしょう」
そうグレンが言った途端、オリヴィアは衝撃を受けたのち、ブツブツと呟き始めた。
「魔法……まじない……呪い…やはり呪いなのですね!?皆さんもそう思いますよねぇ!?」
始めは独り言かのように思われたが、皆に答えを窮してくる。なかなか難しい問題だが、グレンが顎に手を当てながら思索した。
「えぇと、専門分野ではないので詳しくは分かりませんが、きっと光魔法なのではないでしょうか?宗教画に描かれる聖女も羽が生えていましたし」
「そうですよ!そのような美しい天使の羽、決して呪いなどではあり得ませんっ、むしろ祝福ですよ!とてもオリヴィア嬢にお似合いでお美しい!」
グレンとクリストファーが言うが、オリヴィアも引かない。
「いくら光魔法でも使い方によったら呪いも同然なのです!
それに他人に羽を生やす魔法なんて聞いた事ありませんっ、きっと誰かが嫌がらせで、私の安眠を妨害するために、やった事に違いありません!だって、寝る向きが限られてしまいますもの!」
「嫌がらせの目的が地味ですね……」
見た目は派手だけど、とグレンは心中で一人ごちた。
「お嬢様は普段、かなり長時間お眠りになられますから」
一気に羽について盛り上がった面々に、置いてけぼりを食ってしまったエフラムだが、長い事沈黙しながら考えたのち、意を決して口を開いた。
「お、オリヴィア……」
エフラムを全員が注目した。
「ドレスの件はよく分かったよ。では、別の物を贈らせて貰えないかな?これは僕の自己満足だから、素直に受け取って貰いたい。贈り物は考えておくから。
あと……それとは別に、実はオリヴィアにお願いしたい事があって、来月に王宮で開催される舞踏会へオリヴィアに僕のパートナーとして出席して欲しくって。夜会用のドレスは勿論僕がプレゼントする」
エフラムは何がなんでもオリヴィアにプレゼントしたかった。
「夜会はお断りします」
「………」
だが夜会は断られた。
「だって、夜会ですよ?沢山の人の中に、私なんかが紛れ込んでいたら、きっと迷惑だしこの羽が当たってしまいます。きっと多くの人を羽でしばき回します」
「人に当たるのが怖いんだね、大丈夫ずっと僕の側にいれば……」
王子であるエフラムの側にいたら、流石に人々も気軽に群がれないはずだ。それにオリヴィアの事は、何がなんでも自分が守り通すとエフラムは心に決めている。
「違いますエフラム様、羽でなぎ倒すのが私。羽でなぎ倒されるのが周りの貴族です」
「………」
オリヴィアの無駄に堂々とした物言いは、むしろ薙ぎ倒したがっているのではないかと思うほどだった。
「もしかしたらエフラム様の事も羽でしばき回してしまう可能性すらあるのです。むしろ踊っている最中など、ターンをしようものならエフラム様にクリティカルヒットです」
「僕の事はいくらでもしばき回してくれて構わない!オリヴィアにしばかれるなら、僕は本望だ!」
むしろ王子が『オリヴィアにしばかれるのはご褒美です』と言いださないか、全員がハラハラしながら固唾を呑んで見守った。
「エフラム殿下…変態でドMの可能性も……」
「ローズ殿……」
耐えきれず、ボソリと呟いたローズをグレンは小声で制した。
「どちらにせよ、今の所夜会には出るつもりは無いのです」
「そうか……でももし……ほんの少しでも気が変わったら……すぐにでも言って欲しい」
寂しげに微笑むエフラムをオリヴィアはジッと見つめたのち、にこりと微笑んだ。
「分かりましたわ」
「ありがとう!今はその返事が貰えただけで十分だ!僕はオリヴィア以外にエスコートするのは、妹だけだと決めてたんだ。だから気が変わったらすぐにでも言って欲しい」
夜会でのエフラムはこれまで自身の妹である、マリエッタ王女しかエスコートをした事がない。だからそんなエフラムが妹姫以外をエスコートしたとすると、周りは勘ぐるだろう。エフラム王子の相手がやっと決まったのだと。