似非聖女呼ばわりされたので、スローライフ満喫しながら引き篭もります
その21 ヨシュア視点
この国、ユヴェールの第一王子としてヨシュアは産まれた。母親は自国のヴェルディエ伯爵家の産まれで現在は王の側妃。
長年御子に恵まれなかった正妃の代わりに、初めて王の子を産んだのが側妃だったが、王子誕生に国中が喜びに湧いた。
その翌年、正妃がようやく王子を授かる事になる。
そして正妃が産んだ弟エフラムは、血筋も王子として資質も相当優秀であったが、兄弟の仲は悪くはなかった。
更に正妃からは王女が産まれ、王子王女共に健やかに育っていった。
事件が起こったのは、ヨシュアがランス地方へと視察に行った時の事だった。
視察中にヨシュアが乗る馬が、飛び出してきた魔獣に驚いて、ヨシュアは馬から振り落とされてしまった。
魔獣は即座に優秀な騎士達によって倒されたが、ヨシュアは落馬時に、尖った木の枝で負傷してしまう。
というのも落ちた場所は、小さな崖のようになっており、そこに投げ出されて怪我をした。命に別状は無く、骨折などもしなかったものの腕は出血し、傷口は痛々しかった。
応急手当てはお付きの従者が施したが、一旦町で医者に見せようと、従者達が医者を探す事にした。痛みに耐え、額に汗を浮かべるヨシュアを出来るだけ早く医者に見せたい。
滞在の拠点としている大きな町ではなく、一番近くにある小さな町に入ると、一行は馬を預けるよりも早く一人の少女に声をかけられた。
声を掛けてきた少女は、ローズピンクの髪の可愛らしい少女だった。
「…あの、どうかなさったんですか?その人はもしかしてお怪我を……?」
「すまない、医者のいる場所を教えてはくれないだろうか?」
従者がそう返答すると、少女はヨシュアに近付いた。
「私に見せてください」
「近寄るな娘!医者の場所だけ教えてくれればいい」
「でもっ」
従者に強く言われ、少女はビクリと身体を震わせたが、それでも引くことは出来なかった。
その時…。
「私がこの町の医者だが、怪我を治す事に至ってはその子の方が適しています。
その子はこう見えて、回復魔法が使えるんですよ」
偶然買い物に出ていた壮年の医者が通りかかり、少女についての事を従者へと語った。
「…何?」
回復魔法など、王都でも聖女オリヴィアしか使う事が出来ない魔法。
基本魔法は自然や、空気中の物質を利用して発動するものであり、人体の修復が行える人間などそう現れるものではなかった。
希少な回復魔法の使い手が、こんな辺境の小さな町にいるなんて、信じられない。
「触れなくても治せますから、この距離からでも大丈夫です。少しでも不審な事を私がしたら、取り押さえて貰って結構です」
なお疑いの目を向ける従者に対し、少女は物怖じせずに堂々と言った。
そして少女がヨシュアに触れないように怪我の辺りに手をかざすと、柔らかな光がヨシュアを包み込んだ。温かな熱が腕全体へと流れ込む。
心地よさに浸っていると、ヨシュアの腕の傷はみるみる塞がっていき、完全に傷も痛みも無くなってしまった。
これで医者と少女が言ったことは、狂言ではなかった事が証明された。
「これは……!」
傷が完全に塞がった腕をマジマジと見つめるヨシュアと、驚く従者達に向かって少女は微笑んだ。
「ね、本当だったでしょ?私、産まれた時から何故か、人の怪我を治す力があるんです」
「ありがとう」
先程までの苦痛が一瞬で楽になり、ヨシュアは心から感謝の言葉を伝えた。
そんなヨシュア王子と先程の回復魔法を見て、従者は慌てて懐から金貨を取り出す。
「無礼な言い方をしてすまなかった。これは謝礼だ」
「えっ…でも…」
「受け取りなさい」
従者に強く言われると、視線を逸らしながら少女は困ったように言う。
「……受け取れません…私、この力でお金を稼ごうなんて思った訳ではありませんし…ただ怪我をした人を放っておけなくて……」
「受け取ってくれないかな、気持ちだと思って。どうかお礼をさせて欲しい」
心優しく謙虚な少女を見てヨシュアは、純粋な気持ちを告げた。
「…分かりました。でも、これからは気を付けて下さいね」
満面の笑みで言って、頭を下げて去っていく少女。ヨシュアはそんな彼女の笑顔が頭から離れなかった。
しかし、ヨシュアには幼い頃から決まった婚約者がいる。それもその婚約者はこの国の聖女であり、王族と聖女の婚姻は特別な意味をなす。この婚姻は決して覆らない。
彼女は真っ直ぐな光り輝くプラチナブランドの髪に、髪と同じ色の長い睫毛に縁取られた、紫水晶のような瞳。
人々は神々しい外見のオリヴィアを見て、女神や天使に例えたがる。
一月後、ヨシュアはまた怪我を負った。
今回の原因は風の刃を操る魔法の練習で、発動して操る際に手に少しかすめてしまった。
魔法防御力の高い装備を付けているので、大事には至らず、少し切れただけで出血もあまりせずに済んだ。
だが今日は丁度、オリヴィアが妃教育で王宮に訪れる日。王宮に来たついでにこの怪我を治癒魔法で治してもらおうと、オリヴィアの妃教育が終わる時間を見計らって会いに行った。
「怪我をした。治してくれ」
オリヴィアの前に怪我をした手を差し出すと、オリヴィアはマジマジとヨシュアの傷を見てから言う。
「え、それくらいで治癒魔法を掛けろっておっしゃってるんですか??これくらいなら、自然治癒で頑張って治して下さい」
は??
長年御子に恵まれなかった正妃の代わりに、初めて王の子を産んだのが側妃だったが、王子誕生に国中が喜びに湧いた。
その翌年、正妃がようやく王子を授かる事になる。
そして正妃が産んだ弟エフラムは、血筋も王子として資質も相当優秀であったが、兄弟の仲は悪くはなかった。
更に正妃からは王女が産まれ、王子王女共に健やかに育っていった。
事件が起こったのは、ヨシュアがランス地方へと視察に行った時の事だった。
視察中にヨシュアが乗る馬が、飛び出してきた魔獣に驚いて、ヨシュアは馬から振り落とされてしまった。
魔獣は即座に優秀な騎士達によって倒されたが、ヨシュアは落馬時に、尖った木の枝で負傷してしまう。
というのも落ちた場所は、小さな崖のようになっており、そこに投げ出されて怪我をした。命に別状は無く、骨折などもしなかったものの腕は出血し、傷口は痛々しかった。
応急手当てはお付きの従者が施したが、一旦町で医者に見せようと、従者達が医者を探す事にした。痛みに耐え、額に汗を浮かべるヨシュアを出来るだけ早く医者に見せたい。
滞在の拠点としている大きな町ではなく、一番近くにある小さな町に入ると、一行は馬を預けるよりも早く一人の少女に声をかけられた。
声を掛けてきた少女は、ローズピンクの髪の可愛らしい少女だった。
「…あの、どうかなさったんですか?その人はもしかしてお怪我を……?」
「すまない、医者のいる場所を教えてはくれないだろうか?」
従者がそう返答すると、少女はヨシュアに近付いた。
「私に見せてください」
「近寄るな娘!医者の場所だけ教えてくれればいい」
「でもっ」
従者に強く言われ、少女はビクリと身体を震わせたが、それでも引くことは出来なかった。
その時…。
「私がこの町の医者だが、怪我を治す事に至ってはその子の方が適しています。
その子はこう見えて、回復魔法が使えるんですよ」
偶然買い物に出ていた壮年の医者が通りかかり、少女についての事を従者へと語った。
「…何?」
回復魔法など、王都でも聖女オリヴィアしか使う事が出来ない魔法。
基本魔法は自然や、空気中の物質を利用して発動するものであり、人体の修復が行える人間などそう現れるものではなかった。
希少な回復魔法の使い手が、こんな辺境の小さな町にいるなんて、信じられない。
「触れなくても治せますから、この距離からでも大丈夫です。少しでも不審な事を私がしたら、取り押さえて貰って結構です」
なお疑いの目を向ける従者に対し、少女は物怖じせずに堂々と言った。
そして少女がヨシュアに触れないように怪我の辺りに手をかざすと、柔らかな光がヨシュアを包み込んだ。温かな熱が腕全体へと流れ込む。
心地よさに浸っていると、ヨシュアの腕の傷はみるみる塞がっていき、完全に傷も痛みも無くなってしまった。
これで医者と少女が言ったことは、狂言ではなかった事が証明された。
「これは……!」
傷が完全に塞がった腕をマジマジと見つめるヨシュアと、驚く従者達に向かって少女は微笑んだ。
「ね、本当だったでしょ?私、産まれた時から何故か、人の怪我を治す力があるんです」
「ありがとう」
先程までの苦痛が一瞬で楽になり、ヨシュアは心から感謝の言葉を伝えた。
そんなヨシュア王子と先程の回復魔法を見て、従者は慌てて懐から金貨を取り出す。
「無礼な言い方をしてすまなかった。これは謝礼だ」
「えっ…でも…」
「受け取りなさい」
従者に強く言われると、視線を逸らしながら少女は困ったように言う。
「……受け取れません…私、この力でお金を稼ごうなんて思った訳ではありませんし…ただ怪我をした人を放っておけなくて……」
「受け取ってくれないかな、気持ちだと思って。どうかお礼をさせて欲しい」
心優しく謙虚な少女を見てヨシュアは、純粋な気持ちを告げた。
「…分かりました。でも、これからは気を付けて下さいね」
満面の笑みで言って、頭を下げて去っていく少女。ヨシュアはそんな彼女の笑顔が頭から離れなかった。
しかし、ヨシュアには幼い頃から決まった婚約者がいる。それもその婚約者はこの国の聖女であり、王族と聖女の婚姻は特別な意味をなす。この婚姻は決して覆らない。
彼女は真っ直ぐな光り輝くプラチナブランドの髪に、髪と同じ色の長い睫毛に縁取られた、紫水晶のような瞳。
人々は神々しい外見のオリヴィアを見て、女神や天使に例えたがる。
一月後、ヨシュアはまた怪我を負った。
今回の原因は風の刃を操る魔法の練習で、発動して操る際に手に少しかすめてしまった。
魔法防御力の高い装備を付けているので、大事には至らず、少し切れただけで出血もあまりせずに済んだ。
だが今日は丁度、オリヴィアが妃教育で王宮に訪れる日。王宮に来たついでにこの怪我を治癒魔法で治してもらおうと、オリヴィアの妃教育が終わる時間を見計らって会いに行った。
「怪我をした。治してくれ」
オリヴィアの前に怪我をした手を差し出すと、オリヴィアはマジマジとヨシュアの傷を見てから言う。
「え、それくらいで治癒魔法を掛けろっておっしゃってるんですか??これくらいなら、自然治癒で頑張って治して下さい」
は??