似非聖女呼ばわりされたので、スローライフ満喫しながら引き篭もります
その35
「でもこれで羽の脅威からは免れました。安心してケーキの残りを食べる事が出来ます」
オリヴィアは再びケーキをフォークで切り、口に運ぶ。
「やっぱりとても美味しい!エフラム様も早く食べてみて下さい、ついうっかり羽が生えてしまうほど美味しいお味ですよ」
羽が生えてくるとは比喩なのか、物理的にという意味なのかエフラムには分からない。
天使の羽が生えてくるような人間は世界を探してもオリヴィアしかいないだろう。
だがオリヴィアが美味しそうにケーキを食べているのを眺めていて、自分の事を忘れていたので、エフラムもようやく一口を口に運んだ。
「本当だ、凄く美味しい」
「そうでしょう」
二人で一つのケーキを食べ終え、紅茶を飲んで一息。紅茶もこのカフェ独自でブレンドされたブレンドティーで、とても香りのいいお茶だった。
「はぁ、紅茶もとても美味しくて癒されます…」
温かい紅茶で一息ついたオリヴィアは、カップを置いて再びフォークを手にする。
「さあ、次ですよっ次はこの子を胃袋に収めたいと思いますっ」
次にオリヴィアが選んだのは、円形の土台に薄いピンク色をした苺のクリームを周りに塗ったケーキ。
上には濃いピンク色のカーネーションのような、繊細な花弁を苺チョコで作り上げた、まるで芸術品のような完成度だった。
それを真半分に切ると、これもショコラスポンジの部分や、ラズベリーソース、苺、苺クリームなど。いくつかの層に別れており、一口で色んな味を楽しめる。
それを一口、口に運ぶと苺や甘酸っぱいラズベリー、滑らかなクリーム。それらが複雑に口の中で広がり、オリヴィアの頰を緩ませた。
「このベリーとか、入っている中の組み合わせが最高すぎますっ」
「良かった」
またもやエフラムは、オリヴィアの一挙一動をニコニコしたながら見ているのみ。その時、再びオリヴィアの笑顔が張り付いた。
「はっ、またしても羽の気配が!?」
「え」
「ですが、ここここここれさえあればっ」
オリヴィアは笑顔で震えながらあの小袋から一つ、丸い粒を摘んで取り出し、それを物凄いスピードで口に放り込んだ。そしてその瞬間。
「辛っっ!!」
今回は予め、水の入ったグラスを握りしめているため瞬時に飲めた。
水を飲みえおると、小袋を見ながらオリヴィアはガタガタと震えた。
「何ですかこれ〜……酸っぱいのを思い浮かべて食べましたのに、まさか一粒一粒味が違うのですかっ!?」
途端侍女のミオから受け取った小袋が、一層恐ろしく感じてきた。一度食べた時は酸っぱく、二度食べた時は辛かった。果たしてこの謎の粒の味は二種類なのか、それとも他にも味があるというのか。考えても分からないが、オリヴィアは出来れば知りたくはなかったた。
もう、コレのお世話にはなりたくないと。
「う〜〜、まだ舌がヒリヒリします〜……」
「もう一杯水を貰おう」
水分でお腹を満たしたくないので、水は少しだけ飲んでから、残りを平らげた。
「ふう、美味しかったです〜。では3つ目のケーキにいきたいですが…」
そう言いながらオリヴィアはテーブルの隅にある小袋に目を向けた。
「…大丈夫?無理しなくていいからね?最悪羽は僕の上着で隠すとか…」
「もう大丈夫です!何たってこの小袋を見るだけで、心が微妙な気分になるので……」
「そ、そっか……」
オリヴィアとて、羽のしまい方をずっと訓練してきたのだ。多少はコントロール出来るようになっていた。
空いた皿を店の店員に片してもらい、三つ目のケーキに目を向ける。
薄いタルト生地に入ったミルクプリン。そして白ワインのゼリーが上を覆い、中には食用である青と赤紫とピンクの花三種類が収められている。
「とっても綺麗ですねぇ」
「本当だね、切り分けよう」
エフラムは洗練された所作でケーキをナイフとフォークで切り分け、それぞれの皿に乗せた。
「ありがとうございます」
「どうぞ」
やはりエフラムは最初の一口を、まずはオリヴィアに食べるよう促す。
「ん〜、優しくてとても美味しいっ。どのケーキも美味しすぎて選べないですね」
言いながらオリヴィアの視線は、ミオから手渡された小袋にある。きっと心を微妙な気持ちにさせているのだと、エフラムは察した。
「この透明のケーキ、本当綺麗ですねぇ。カルロスと一緒に作れたりするのかしら?」
「いいね、こういうのが手作り出来るなんて尊敬するよ」
「もし作ったら、食べに来て下さいますか…?」
「!!勿論だよ!絶対行きたいっ」
「良かった」
オリヴィアは満面の笑みで言った。