似非聖女呼ばわりされたので、スローライフ満喫しながら引き篭もります
その43
(ヨシュア様……)
久々に目にする元婚約者の姿に、オリヴィアは微かに心が騒ついた。
お茶会の参加者達も、扇で口元を隠しながら何かを囁き合っている。
マリエッタが立ち上がると、ヨシュアはこちらに近づいて来た。
「ヨシュアお兄様っ、どうしてこちらに……?」
「謹慎なら解けているのだから、私がどこにいようと勝手……と言いたいところだが……」
その言葉に、動揺していた令嬢達も一斉に冷ややかな視線をヨシュアとアイリーンに送る。中々の迫力だった。
外出の許可は出ているようだが、先日王宮で開かれた夜会への立ち入りも、禁止されているなど彼の行動には、いくつかの制限がかけられていると思われる。
そのような状況下で、わざわざこの離宮のお茶会へと足を踏み入れるとは、主催者であるマリエッタも予想出来なかったらしい。
マリエッタは、兄の言動が全く理解出来ないでいた。
「真の聖女であるアイリーンも、いずれはこの茶会に参加するようになるだろうから、今のうちに見学させてあげようと思ってな」
「何ですって?」
言いながらイザベルも立ち上がる。それは決して荒げては無いはずなのにとても通る声で、同時にイザベルの眼光が鋭く光ったように錯覚する程。
ヨシュアは余裕ぶった態度を崩すまいと、頑張っているように見えるが、イザベルの一言で僅かに表情が引き攣ったのをオリヴィアとマリエッタは見逃さなかった。
彼は昔からイザベルを苦手としていた。
代わりにアイリーンの方は分かりやすく動揺の色が伺える。
「陛下が自室から出てもいいと許可を下さったのだ……ん?」
何かに気付いたようなヨシュアの視線の先には、オリヴィアが呆気にとられた表情で席に座っていた。視線が合ってしまった事で直ぐにオリヴィアは口を開く。
「お久しぶりです」
「オリヴィアか、どうやら妙な羽を背負うのは止めたようだな。やはりアレは、アイリーンを陥れるための手品だったという訳か」
冷ややかな視線と共に、吐き捨てるように呟かれた言葉に、マリエッタはすぐ様反応を示す。
「お兄様!まだその様な事を……!」
「陥れるだなんてそんな、私はお二人には幸せに……」
最後まで言い切る直前、上空より柔らかな光がオリヴィアに降り注ぎ、その身体を照らし始めた。
謎の発光に皆が騒然となる中、オリヴィアも事態が飲み込めないながらも「この場所だけ何故か妙に日当たりが良い」と解釈し、立ち上がって場を移動する事にした。だが、光はピンポイントで狙い撃ちするかの如く、オリヴィアのみを照らしてくる。
(お、追いかけてきます!?今度は光に呪われている!?私はどれだけ呪われ体質なんですか〜!?)
ほどなくして天から降り注ぐ光が消えた事に安堵し、胸を撫で下ろしたのも束の間──。
オリヴィアに注目していた令嬢達は何やら騒ぎ始め、口々に声をあげた。
「て、天使だわっ」
「いえ、聖女の証よ!」
嫌な予感がしてオリヴィアは振り返る。すると見覚えのありすぎる、純白の天使の羽が自分の背中に出現していた。
「げぇっ!?」
自身の背中の羽に強い拒否反応を示すオリヴィアだが、令嬢達は興奮気味に声を上げた。
「わたくしのお父様も以前、会議でオリヴィア様の翼を見たって言っていたわ、本当だったのね!」
「わたくしのお父様も言っていたわ、まるで宗教画に描かれる聖女様そのものね」
「今のオリヴィア様に向かってお祈りをすれば、願いが叶うのだとか……」
「わたくしもその噂を聞いた事がありますわ……良い縁談に恵まれますように」
羽についての噂は謎の尾ひれがついているらしく、狼狽するオリヴィアへ何故か祈り始める令嬢もいたりと、お茶会は更なるカオスへと突入する中──。
ヨシュアの大声が場に響き渡る。
「オリヴィアっ!また妙な手品を!しかも今回は頭の飾りまで用意するとは、なんと大掛かりな手品を披露するのだ!?
そうまでして自分が聖女であるとアピールをしようとは……!」
「あっ、あたまっ!?」
ワナワナと震えながら人の頭を刺してくるヨシュアに言われて、両手で頭を抑えつつ目線を上げてみた。
なんと、オリヴィアのプラチナブロンドの頭の上に、天使の輪が出現していた。これは新しいパターンだ、と感心する間も無くオリヴィアも叫ぶ。
「なんじゃこりゃぁ!?」
叫びと共に、聞き慣れた声が自分の名前を呼ぶ。
『オリヴィア!』
「フェリーさん!?」
目の前に突如として現れるフェリクス。
『また馬鹿王子にオリヴィアが聖女である事を否定されて、僕はそれが悔しくて悔しくて!強制的にオリヴィアの背中に羽を出現させてみたよ!今回はより分かりやすいように、頭に天使の輪っかみたいなものも特別に付けてみたからね!』
「ぶあぁぁぁ!?空気を読んで下さーい!!みたいなって何ですか、輪っかみたいなって!?ちょっといい加減過ぎませんか!?」
オリヴィアにとってフェリクスの気遣いは、全く有り難くなかった。
「オリヴィアっ、誰と話しているんだっ?」
「え?」
苛立ちを隠そうとしないヨシュアに対し「フェリーさんですけど?」と言いかけるも、オリヴィアが話す前に、それについてフェリクスが説明する。
『現在僕の本物の体はフローゼス家の屋敷にいるから、これは実体ではなくて幻影なんだ。オリヴィア以外は皆んな、僕の姿は見えていないよ!ちなみに、もう少しでマフィンが焼けるみたいなんだ!!食べてくるね!』
「そんなっ」
(それじゃ私、側から見たら誰もいない所に喋りかけていたという事ですか!?それは、とてつもなく痛々しいです……!)
フェリクスの幻影は消え、唖然とするオリヴィアだったが我に返り、自分に注目する周囲の人々へ向き合った。
ちなみに天使の羽と頭の輪っかは未だ健在である。
久々に目にする元婚約者の姿に、オリヴィアは微かに心が騒ついた。
お茶会の参加者達も、扇で口元を隠しながら何かを囁き合っている。
マリエッタが立ち上がると、ヨシュアはこちらに近づいて来た。
「ヨシュアお兄様っ、どうしてこちらに……?」
「謹慎なら解けているのだから、私がどこにいようと勝手……と言いたいところだが……」
その言葉に、動揺していた令嬢達も一斉に冷ややかな視線をヨシュアとアイリーンに送る。中々の迫力だった。
外出の許可は出ているようだが、先日王宮で開かれた夜会への立ち入りも、禁止されているなど彼の行動には、いくつかの制限がかけられていると思われる。
そのような状況下で、わざわざこの離宮のお茶会へと足を踏み入れるとは、主催者であるマリエッタも予想出来なかったらしい。
マリエッタは、兄の言動が全く理解出来ないでいた。
「真の聖女であるアイリーンも、いずれはこの茶会に参加するようになるだろうから、今のうちに見学させてあげようと思ってな」
「何ですって?」
言いながらイザベルも立ち上がる。それは決して荒げては無いはずなのにとても通る声で、同時にイザベルの眼光が鋭く光ったように錯覚する程。
ヨシュアは余裕ぶった態度を崩すまいと、頑張っているように見えるが、イザベルの一言で僅かに表情が引き攣ったのをオリヴィアとマリエッタは見逃さなかった。
彼は昔からイザベルを苦手としていた。
代わりにアイリーンの方は分かりやすく動揺の色が伺える。
「陛下が自室から出てもいいと許可を下さったのだ……ん?」
何かに気付いたようなヨシュアの視線の先には、オリヴィアが呆気にとられた表情で席に座っていた。視線が合ってしまった事で直ぐにオリヴィアは口を開く。
「お久しぶりです」
「オリヴィアか、どうやら妙な羽を背負うのは止めたようだな。やはりアレは、アイリーンを陥れるための手品だったという訳か」
冷ややかな視線と共に、吐き捨てるように呟かれた言葉に、マリエッタはすぐ様反応を示す。
「お兄様!まだその様な事を……!」
「陥れるだなんてそんな、私はお二人には幸せに……」
最後まで言い切る直前、上空より柔らかな光がオリヴィアに降り注ぎ、その身体を照らし始めた。
謎の発光に皆が騒然となる中、オリヴィアも事態が飲み込めないながらも「この場所だけ何故か妙に日当たりが良い」と解釈し、立ち上がって場を移動する事にした。だが、光はピンポイントで狙い撃ちするかの如く、オリヴィアのみを照らしてくる。
(お、追いかけてきます!?今度は光に呪われている!?私はどれだけ呪われ体質なんですか〜!?)
ほどなくして天から降り注ぐ光が消えた事に安堵し、胸を撫で下ろしたのも束の間──。
オリヴィアに注目していた令嬢達は何やら騒ぎ始め、口々に声をあげた。
「て、天使だわっ」
「いえ、聖女の証よ!」
嫌な予感がしてオリヴィアは振り返る。すると見覚えのありすぎる、純白の天使の羽が自分の背中に出現していた。
「げぇっ!?」
自身の背中の羽に強い拒否反応を示すオリヴィアだが、令嬢達は興奮気味に声を上げた。
「わたくしのお父様も以前、会議でオリヴィア様の翼を見たって言っていたわ、本当だったのね!」
「わたくしのお父様も言っていたわ、まるで宗教画に描かれる聖女様そのものね」
「今のオリヴィア様に向かってお祈りをすれば、願いが叶うのだとか……」
「わたくしもその噂を聞いた事がありますわ……良い縁談に恵まれますように」
羽についての噂は謎の尾ひれがついているらしく、狼狽するオリヴィアへ何故か祈り始める令嬢もいたりと、お茶会は更なるカオスへと突入する中──。
ヨシュアの大声が場に響き渡る。
「オリヴィアっ!また妙な手品を!しかも今回は頭の飾りまで用意するとは、なんと大掛かりな手品を披露するのだ!?
そうまでして自分が聖女であるとアピールをしようとは……!」
「あっ、あたまっ!?」
ワナワナと震えながら人の頭を刺してくるヨシュアに言われて、両手で頭を抑えつつ目線を上げてみた。
なんと、オリヴィアのプラチナブロンドの頭の上に、天使の輪が出現していた。これは新しいパターンだ、と感心する間も無くオリヴィアも叫ぶ。
「なんじゃこりゃぁ!?」
叫びと共に、聞き慣れた声が自分の名前を呼ぶ。
『オリヴィア!』
「フェリーさん!?」
目の前に突如として現れるフェリクス。
『また馬鹿王子にオリヴィアが聖女である事を否定されて、僕はそれが悔しくて悔しくて!強制的にオリヴィアの背中に羽を出現させてみたよ!今回はより分かりやすいように、頭に天使の輪っかみたいなものも特別に付けてみたからね!』
「ぶあぁぁぁ!?空気を読んで下さーい!!みたいなって何ですか、輪っかみたいなって!?ちょっといい加減過ぎませんか!?」
オリヴィアにとってフェリクスの気遣いは、全く有り難くなかった。
「オリヴィアっ、誰と話しているんだっ?」
「え?」
苛立ちを隠そうとしないヨシュアに対し「フェリーさんですけど?」と言いかけるも、オリヴィアが話す前に、それについてフェリクスが説明する。
『現在僕の本物の体はフローゼス家の屋敷にいるから、これは実体ではなくて幻影なんだ。オリヴィア以外は皆んな、僕の姿は見えていないよ!ちなみに、もう少しでマフィンが焼けるみたいなんだ!!食べてくるね!』
「そんなっ」
(それじゃ私、側から見たら誰もいない所に喋りかけていたという事ですか!?それは、とてつもなく痛々しいです……!)
フェリクスの幻影は消え、唖然とするオリヴィアだったが我に返り、自分に注目する周囲の人々へ向き合った。
ちなみに天使の羽と頭の輪っかは未だ健在である。