似非聖女呼ばわりされたので、スローライフ満喫しながら引き篭もります
その49
ダイニングのテーブルには温かい紅茶とスープ。新鮮なサラダに果物、卵料理。そして焼き立てのバゲットとバターと蜂蜜。
並べられた朝食の中から、蜂蜜をジッと見つめるオリヴィアにローズは話しかける。
「気付かれました……?」
そわそわとしながら頬を赤らめるローズの姿が、やけに可愛らしく映ると同時に、オリヴィアの考えが確信に変わった。
「まさかこれは……遺跡産ロイヤルフラワーの蜜……!」
「流石オリヴィアお嬢様っ」
ローズは顔を綻ばせた。
古の時代、初代聖女が現れる以前から遺跡は、魔物と自然とが独自の生態系を形成していた。同時に珍しい植物や果物、薬草などの貴重な資源の採取場として、現在でも機能している。
魔物も比較的凶悪な者は生息しておらず、この国に国籍を置く者のみ、立ち入りを許された場所なのだ。
以上の利点から聖女の加護の元、魔物が寄り付かないように結界がなされているこの国ユヴェールの中で例外に、敢えて聖女の祈りが届かぬよう施された場所である。
そしてその貴重な資源の一つが、遺跡の魔物が集めたロイヤルフラワーの蜜。
百花ではなく、遺跡内にのみに確認されている珍しいロイヤルフラワーという、一つの花の蜜のみを集めて作られた、大変貴重な代物。
味の美味しさもさる事ながら、栄養も豊富で薬としての評価も高く、冒険者が持ち帰った際には高額で取り引きされている。
そしてこれはオリヴィアの好物でもある。
「こんな貴重な物、どうしたの?」
「実は昨日のお休みを利用して、カルロスと、遺跡に行って採取してきたのです。ねぇ、カルロス?」
ローズが視線を投げかけた扉の隙間から、オリヴィアの様子をこっそり見に来たカルロスの姿があった。
ローズに促され、ダイニングへと入室したカルロスにオリヴィアは憂わしげに声をあげる。
「まぁ!ローズやカルロスも遺跡に!?遺跡には魔物も生息していているのにっ」
「お嬢様に元気を出して頂きたくて……」
ポツリと溢すカルロスの思いに、オリヴィアは胸が締め付けられそうになる。
「そんなっ、争いを好まず戦う術など持つ筈のない心優しいカルロスが、そのような危険な場所へ足を運ぶなんて……っ」
初心者の冒険者が倒しやすい程度の魔物しかいないとはいえ、やはり人に襲い掛かってくる種も生息している。自分のために二人が危ない目に合うなんてと自責の念に苛まれていると「ご安心下さい」と笑顔でカルロスが言った。
「魔物が飛び出して来た時はとても驚きましたが、ミシェル様が自分を庇って下さり、素早く剣を引き抜いて倒して下さいました!」
珍しく興奮気味に語るカルロスは続ける。
「やっぱり凄いですね、騎士様って。あんなにもお強くて、流石盾であり剣である騎士様だなと尊敬の念に堪えません。弱くて臆病な自分とは大違いです」
オリヴィアの護衛騎士の中でも、ミシェルは群を抜いて小柄で華奢な少年騎士だ。
そのミシェルが大柄な挙句、筋骨隆々で見るからに強そうなカルロスを守る姿は、なかなか想像し辛いだろう。
だがオリヴィアは安心したように表情を綻ばせた。
「そうよね、ミシェル様がいれば安心よね。か弱いカルロスとローズを守って下さって、私からも後でお礼をいっておかないと。
二人とも、本当にありがとう。大切に頂くわね」
「オリヴィアお嬢様の人を決して外見で判断しないという鋼の心、私は未だに感服してしまいます……」
関心と呆れを含んだ眼差しで見ていたローズは、両手をパチンと叩いて仕切り直した。
「さ、お食事にしましょう。せっかくの紅茶やスープが冷めてしまいますわ」
ローズはカバーを外すと、ティーポットを持ち上げて、オリヴィアの目の前にあるカップへと紅茶を注いでいく。
紅茶の芳醇な香りが広がった。
並べられた朝食の中から、蜂蜜をジッと見つめるオリヴィアにローズは話しかける。
「気付かれました……?」
そわそわとしながら頬を赤らめるローズの姿が、やけに可愛らしく映ると同時に、オリヴィアの考えが確信に変わった。
「まさかこれは……遺跡産ロイヤルフラワーの蜜……!」
「流石オリヴィアお嬢様っ」
ローズは顔を綻ばせた。
古の時代、初代聖女が現れる以前から遺跡は、魔物と自然とが独自の生態系を形成していた。同時に珍しい植物や果物、薬草などの貴重な資源の採取場として、現在でも機能している。
魔物も比較的凶悪な者は生息しておらず、この国に国籍を置く者のみ、立ち入りを許された場所なのだ。
以上の利点から聖女の加護の元、魔物が寄り付かないように結界がなされているこの国ユヴェールの中で例外に、敢えて聖女の祈りが届かぬよう施された場所である。
そしてその貴重な資源の一つが、遺跡の魔物が集めたロイヤルフラワーの蜜。
百花ではなく、遺跡内にのみに確認されている珍しいロイヤルフラワーという、一つの花の蜜のみを集めて作られた、大変貴重な代物。
味の美味しさもさる事ながら、栄養も豊富で薬としての評価も高く、冒険者が持ち帰った際には高額で取り引きされている。
そしてこれはオリヴィアの好物でもある。
「こんな貴重な物、どうしたの?」
「実は昨日のお休みを利用して、カルロスと、遺跡に行って採取してきたのです。ねぇ、カルロス?」
ローズが視線を投げかけた扉の隙間から、オリヴィアの様子をこっそり見に来たカルロスの姿があった。
ローズに促され、ダイニングへと入室したカルロスにオリヴィアは憂わしげに声をあげる。
「まぁ!ローズやカルロスも遺跡に!?遺跡には魔物も生息していているのにっ」
「お嬢様に元気を出して頂きたくて……」
ポツリと溢すカルロスの思いに、オリヴィアは胸が締め付けられそうになる。
「そんなっ、争いを好まず戦う術など持つ筈のない心優しいカルロスが、そのような危険な場所へ足を運ぶなんて……っ」
初心者の冒険者が倒しやすい程度の魔物しかいないとはいえ、やはり人に襲い掛かってくる種も生息している。自分のために二人が危ない目に合うなんてと自責の念に苛まれていると「ご安心下さい」と笑顔でカルロスが言った。
「魔物が飛び出して来た時はとても驚きましたが、ミシェル様が自分を庇って下さり、素早く剣を引き抜いて倒して下さいました!」
珍しく興奮気味に語るカルロスは続ける。
「やっぱり凄いですね、騎士様って。あんなにもお強くて、流石盾であり剣である騎士様だなと尊敬の念に堪えません。弱くて臆病な自分とは大違いです」
オリヴィアの護衛騎士の中でも、ミシェルは群を抜いて小柄で華奢な少年騎士だ。
そのミシェルが大柄な挙句、筋骨隆々で見るからに強そうなカルロスを守る姿は、なかなか想像し辛いだろう。
だがオリヴィアは安心したように表情を綻ばせた。
「そうよね、ミシェル様がいれば安心よね。か弱いカルロスとローズを守って下さって、私からも後でお礼をいっておかないと。
二人とも、本当にありがとう。大切に頂くわね」
「オリヴィアお嬢様の人を決して外見で判断しないという鋼の心、私は未だに感服してしまいます……」
関心と呆れを含んだ眼差しで見ていたローズは、両手をパチンと叩いて仕切り直した。
「さ、お食事にしましょう。せっかくの紅茶やスープが冷めてしまいますわ」
ローズはカバーを外すと、ティーポットを持ち上げて、オリヴィアの目の前にあるカップへと紅茶を注いでいく。
紅茶の芳醇な香りが広がった。