似非聖女呼ばわりされたので、スローライフ満喫しながら引き篭もります
その58
程なくして、エフラムの立太子が国中に告げられる事となった。
同時に第一王子ヨシュアと聖女オリヴィアの婚約の白紙も発表されたが、その経緯についての詳細は語られなかった。
だがヨシュアがオリヴィアとは違う平民女性、アイリーンを伴って町へと頻繁に訪れていたのを、王都の人々は目撃している。
そして貴族間においては、重鎮の目の前でヨシュアが勝手に婚約破棄を宣言をした暴挙。並びにお茶会での騒動など、ヨシュアが平民女性に入れ上げているのは、王都の人間なら周知の事実だった。
当のアイリーンは、未だに王宮で用意されている部屋から出てこず、辺境への帰還を希望しているという。
◇
夜の帳が降りた頃、湯浴みを終えたオリヴィアの髪を丁寧に梳かしながら、ローズは語りかける。
「先日第一王子を襲った密偵の残党が、まだ王都にいる可能性もございます。王都の警備強化は勿論、オリヴィアお嬢様への護衛もより厳重にするとの事です。ですが充分にお気を付け下さいませ」
この国では神殿で行われる、立太子の儀式という伝統がある。そしてその前に、エフラムが王位を継ぐ者であると、国王が国民の前で宣言する事となっている。
集まった民の前で宣言される際には、エフラムは勿論、オリヴィアも聖女として同席しなければならない。久々にオリヴィアが聖女として、民の前に立つ日でもあるのだ。
「エフラム様が王太子様に……何だか遠い存在になられてしまうようだわ」
「お寂しいのですか?」
鏡越しのオリヴィアに、くすりと笑みをこぼしながらローズが尋ねる。オリヴィアは思案するような表情で言葉を紡いだ。
「そうね、親離れ子離れ……ではなくて、幼馴染として身近に感じていた方が、遠くに行ってしまわれるような……。あ、わたしが勝手に、身近に感じていただけだけなのだけどっ」
「別に、これからも距離感は変わらないと思いますが。むしろ……」
二人の距離は今後、縮まる可能性の方が高いとローズは考えている。
現にヨシュアとの婚約の白紙が発表された今、王太子と聖女の婚約発表を期待する国民は多い。町を歩けばエフラムの立太子が決まった事と、一揃いで語られる程、二人の婚約の噂は必ず耳にする話題だ。
オリヴィアとエフラムが婚約するとなれば、晴れて二人は正式な恋人となる。
ずっと身近でもどかしい思いを抱えながら、生暖かく見守っていたローズとしても、それは喜ばしい限りである。
そんなローズの心を知ってか知らずか、オリヴィアからはいつも通りの飄々とした返答が返ってくる。
「そういう訳にはいかないんじゃない?」
小首を傾げるオリヴィアを見て、ローズは憂わしげに微苦笑した。
(まさかエフラム殿下ってばオリヴィアお嬢様に、未だにお茶飲み友達くらいにしか見られていないの?いや、そんなまさか……)
第一王子からの婚約破棄宣言直後の、第二王子からの新たな婚姻の打診につい、最初は猜疑心を抱えてしまっていた。
しかしエフラムのオリヴィアに対する真摯な想いをローズは理解し、途中からは応援せずにはいられなかった。
「むしろ立太子の宣言の後は、神殿にて立太子の儀式も控えております。私的にお会いするだけでなく、今後は公式の場でもエフラム殿下を支える場面が増えてくるかと思われます。ですからきっと、お二人は公私共に距離が縮まるのです!」
「そうよね、これからも国を守る同士として、王太子となられるエフラム様とお会いする際は、今まで以上に身を引き締める思いで望まないと」
ローズは自分の考えがいまいち伝わっていないように感じ、不安に駆られるのだった。
同時に第一王子ヨシュアと聖女オリヴィアの婚約の白紙も発表されたが、その経緯についての詳細は語られなかった。
だがヨシュアがオリヴィアとは違う平民女性、アイリーンを伴って町へと頻繁に訪れていたのを、王都の人々は目撃している。
そして貴族間においては、重鎮の目の前でヨシュアが勝手に婚約破棄を宣言をした暴挙。並びにお茶会での騒動など、ヨシュアが平民女性に入れ上げているのは、王都の人間なら周知の事実だった。
当のアイリーンは、未だに王宮で用意されている部屋から出てこず、辺境への帰還を希望しているという。
◇
夜の帳が降りた頃、湯浴みを終えたオリヴィアの髪を丁寧に梳かしながら、ローズは語りかける。
「先日第一王子を襲った密偵の残党が、まだ王都にいる可能性もございます。王都の警備強化は勿論、オリヴィアお嬢様への護衛もより厳重にするとの事です。ですが充分にお気を付け下さいませ」
この国では神殿で行われる、立太子の儀式という伝統がある。そしてその前に、エフラムが王位を継ぐ者であると、国王が国民の前で宣言する事となっている。
集まった民の前で宣言される際には、エフラムは勿論、オリヴィアも聖女として同席しなければならない。久々にオリヴィアが聖女として、民の前に立つ日でもあるのだ。
「エフラム様が王太子様に……何だか遠い存在になられてしまうようだわ」
「お寂しいのですか?」
鏡越しのオリヴィアに、くすりと笑みをこぼしながらローズが尋ねる。オリヴィアは思案するような表情で言葉を紡いだ。
「そうね、親離れ子離れ……ではなくて、幼馴染として身近に感じていた方が、遠くに行ってしまわれるような……。あ、わたしが勝手に、身近に感じていただけだけなのだけどっ」
「別に、これからも距離感は変わらないと思いますが。むしろ……」
二人の距離は今後、縮まる可能性の方が高いとローズは考えている。
現にヨシュアとの婚約の白紙が発表された今、王太子と聖女の婚約発表を期待する国民は多い。町を歩けばエフラムの立太子が決まった事と、一揃いで語られる程、二人の婚約の噂は必ず耳にする話題だ。
オリヴィアとエフラムが婚約するとなれば、晴れて二人は正式な恋人となる。
ずっと身近でもどかしい思いを抱えながら、生暖かく見守っていたローズとしても、それは喜ばしい限りである。
そんなローズの心を知ってか知らずか、オリヴィアからはいつも通りの飄々とした返答が返ってくる。
「そういう訳にはいかないんじゃない?」
小首を傾げるオリヴィアを見て、ローズは憂わしげに微苦笑した。
(まさかエフラム殿下ってばオリヴィアお嬢様に、未だにお茶飲み友達くらいにしか見られていないの?いや、そんなまさか……)
第一王子からの婚約破棄宣言直後の、第二王子からの新たな婚姻の打診につい、最初は猜疑心を抱えてしまっていた。
しかしエフラムのオリヴィアに対する真摯な想いをローズは理解し、途中からは応援せずにはいられなかった。
「むしろ立太子の宣言の後は、神殿にて立太子の儀式も控えております。私的にお会いするだけでなく、今後は公式の場でもエフラム殿下を支える場面が増えてくるかと思われます。ですからきっと、お二人は公私共に距離が縮まるのです!」
「そうよね、これからも国を守る同士として、王太子となられるエフラム様とお会いする際は、今まで以上に身を引き締める思いで望まないと」
ローズは自分の考えがいまいち伝わっていないように感じ、不安に駆られるのだった。