似非聖女呼ばわりされたので、スローライフ満喫しながら引き篭もります
その9
元軍人だったりします?と、思わず聞いてしまいたくなるような風貌のゴリマッチョパティシエ、カルロスだが彼の家系は代々料理人である。そして彼もまたパティシエとし、て繊細で可愛らしいスイーツを作り出す事を生き甲斐としている。なので当然軍事経験など皆無。
そんなカルロスは、低く唸るような低音を響かせた。
「……お嬢様……」
オリヴィアは相変わらずのほほんと、マイペースにカルロスと向き合っているが、ローズはゴクリと唾を飲み込んだ。
カルロスは機嫌が悪いとか悪くないとか、表情や雰囲気ではそれらが分かり辛い。だが、厨房という彼の聖域を犯す事により、今まで眠っていた前世が実は鬼神とか、何かの本能が目覚めてしまったら……。ローズは脳内で様々な事柄を思い巡らせ、未知の恐怖が込み上げてきた。
(もしカルロスがキレてしまったら、私が身を呈してオリヴィアお嬢様をお守りしないと……!)
ローズはいつでも動けるように身構えていた。
そんなローズと、オリヴィアを眼前にカルロスは再び口を開き、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「………お嬢様。厨房にお入りになられるつもりなら、羽が調理器具や棚にぶつからないよう注意して下さい」
ローズはカルロスの言葉にほっと胸を撫で下ろした。ただ注意してくれただけのようだ。
カルロスが注意をうながすのは当然だ。オリヴィアの場合、ただ羽が幅を取るとか、邪魔とかいう以前の問題なのである。つい先日、後天的に羽が生えてきたので、まだ羽と物の距離感を掴めていない。
ちょくちょくオリヴィアが家具などに羽をぶつけているところを、ローズは目にしている。
しかも「イタッ」と呟いているので痛覚もあるらしい。
「火が羽に燃え移ったら大変です」
そういうカルロスが指差す方を見ると、侯爵家から連れてきた料理人による、晩御飯の仕込みと思われる鍋がグツグツと煮込まれている最中だった。
「確かに!!」
オリヴィアとローズは揃って声を挙げた。
「優しいのね、教えてくれてありがとうカルロス。注意してくれなかったら、うっかりチキンになっていたかもしれないわ」
「……お嬢様は鳥ではないと思いますが」
カルロスはオリヴィアの羽が当たらないようにと、厨房を出来るだけ広く使うため、調理器具をしまったりと工夫をしてくれた。
◇◇◇◇◇
「一体お嬢様が厨房に何の御用ですか?」と尋ねるカルロスに、オリヴィアは一連の、お菓子に抱く熱い思いを説明した。
「お嬢様がお菓子作りですか……」
「お仕事の邪魔をしないようにしますから、お願いします。でも、もしよければ……簡単なお菓子の作り方を教わりたいのです。無理にとは言いませんが……」
「それは……構いませんが……」
その一言に、オリヴィアは笑顔を咲かせた。
「本当ですか!?では、初心者が挑戦しやすいお菓子とは、どういった物がおススメでしょうか?」
オリヴィアのテンションに少々困惑気味なカルロスは、少し考えたのち口を開いた。
「パンケーキとかですかね……?」
「まぁ!パンケーキ、大好きです!」
「フォンダンショコラとか」
「フォンダンショコラも好きです!」
「クッキーとかクレープとか」
「クッキーもクレープも大好きです!!」
そんな二人のやり取りを見て、ローズは苦笑した。
「そもそもお嬢様って、好き嫌いなんてないですよね……?」
「えぇ、うちのお料理はどれも美味しいですもの。特にお菓子は全部大好きですっ」
じゃあ別に何でもいいのでは?と、言う言葉を飲み込むとローズは提言する。
「時間はたっぷりあるのですから、一つずつ教わっていきましょう。カルロスの負担にならない頻度で」
「自分は全然構いませんよ」
「一つずつ教わったとしても、一月経つころには覚えたレシピが、豊富になっていそうですっ」
オリヴィアはこれからの、この屋敷での生活を見据えて瞳を輝かせた。
そんなカルロスは、低く唸るような低音を響かせた。
「……お嬢様……」
オリヴィアは相変わらずのほほんと、マイペースにカルロスと向き合っているが、ローズはゴクリと唾を飲み込んだ。
カルロスは機嫌が悪いとか悪くないとか、表情や雰囲気ではそれらが分かり辛い。だが、厨房という彼の聖域を犯す事により、今まで眠っていた前世が実は鬼神とか、何かの本能が目覚めてしまったら……。ローズは脳内で様々な事柄を思い巡らせ、未知の恐怖が込み上げてきた。
(もしカルロスがキレてしまったら、私が身を呈してオリヴィアお嬢様をお守りしないと……!)
ローズはいつでも動けるように身構えていた。
そんなローズと、オリヴィアを眼前にカルロスは再び口を開き、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「………お嬢様。厨房にお入りになられるつもりなら、羽が調理器具や棚にぶつからないよう注意して下さい」
ローズはカルロスの言葉にほっと胸を撫で下ろした。ただ注意してくれただけのようだ。
カルロスが注意をうながすのは当然だ。オリヴィアの場合、ただ羽が幅を取るとか、邪魔とかいう以前の問題なのである。つい先日、後天的に羽が生えてきたので、まだ羽と物の距離感を掴めていない。
ちょくちょくオリヴィアが家具などに羽をぶつけているところを、ローズは目にしている。
しかも「イタッ」と呟いているので痛覚もあるらしい。
「火が羽に燃え移ったら大変です」
そういうカルロスが指差す方を見ると、侯爵家から連れてきた料理人による、晩御飯の仕込みと思われる鍋がグツグツと煮込まれている最中だった。
「確かに!!」
オリヴィアとローズは揃って声を挙げた。
「優しいのね、教えてくれてありがとうカルロス。注意してくれなかったら、うっかりチキンになっていたかもしれないわ」
「……お嬢様は鳥ではないと思いますが」
カルロスはオリヴィアの羽が当たらないようにと、厨房を出来るだけ広く使うため、調理器具をしまったりと工夫をしてくれた。
◇◇◇◇◇
「一体お嬢様が厨房に何の御用ですか?」と尋ねるカルロスに、オリヴィアは一連の、お菓子に抱く熱い思いを説明した。
「お嬢様がお菓子作りですか……」
「お仕事の邪魔をしないようにしますから、お願いします。でも、もしよければ……簡単なお菓子の作り方を教わりたいのです。無理にとは言いませんが……」
「それは……構いませんが……」
その一言に、オリヴィアは笑顔を咲かせた。
「本当ですか!?では、初心者が挑戦しやすいお菓子とは、どういった物がおススメでしょうか?」
オリヴィアのテンションに少々困惑気味なカルロスは、少し考えたのち口を開いた。
「パンケーキとかですかね……?」
「まぁ!パンケーキ、大好きです!」
「フォンダンショコラとか」
「フォンダンショコラも好きです!」
「クッキーとかクレープとか」
「クッキーもクレープも大好きです!!」
そんな二人のやり取りを見て、ローズは苦笑した。
「そもそもお嬢様って、好き嫌いなんてないですよね……?」
「えぇ、うちのお料理はどれも美味しいですもの。特にお菓子は全部大好きですっ」
じゃあ別に何でもいいのでは?と、言う言葉を飲み込むとローズは提言する。
「時間はたっぷりあるのですから、一つずつ教わっていきましょう。カルロスの負担にならない頻度で」
「自分は全然構いませんよ」
「一つずつ教わったとしても、一月経つころには覚えたレシピが、豊富になっていそうですっ」
オリヴィアはこれからの、この屋敷での生活を見据えて瞳を輝かせた。