契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「停電は直ったみたいだな。今は……五時半か、出勤までまだ時間がある。コーヒー淹れるよ」
 
そう言ってソファを下りてキッチンへ歩いていく。
 
楓はホッと息を吐いた。とにかく近すぎる距離から離れたことに安堵する。
 
それにしても。
 
ひと晩同じソファの上で寝たというのに、まったくなんでもないように振る舞う彼が驚きだ。

きっと彼からしてみれば、このくらいはなんてことのない出来事なのだろう。
 
一方でキッチンでコーヒーのマシーンのそばにいる和樹が、なにかに気がついたように振り返った。

「楓は、コーヒーはインスタント派だったな」
 
いつかの日の朝にそう言ったのを覚えていてくれたのだ。

楓はソファを下りてキッチンへ向かう。少し考えてから本当のことを口にする。

「インスタント派ってわけじゃないんです。本当は、マシーンの使い方がわからなかっただけで」

昨夜の彼の言葉を頭に浮かべていた。

『時には誰かを頼ったっていい』
 
もちろんそれを鵜呑みにして、なにもかもを頼るつもりはないけれど、このくらいはいいだろう。

今までの自分なら考えられないことだけれど、自然とそういう気持ちになった。
 
楓の言葉に、和樹が意外だというような表情になった。

「使い方がわからなかった?」

「し、仕事ではしっかりしなきゃって気を張っている分、家では気が抜けてしまうっていうか……。わざわざ調べなくてもインスタントなら楽でいっかって、手を抜いてしまいます。節約生活が長いからこういう新しい物には縁がないし」
 
和樹が微笑んだ。

「なるほど。おいで、おしえてあげるから」
 
楓がマシーンの前まで行くと、和樹が引き出しからポーションを取り出し、楽しげに説明をし始める。

「とは言っても、おしえると言うほど、難しい操作でもない。ただポーションをセットしてカップを置き、ボタンを押すだけだ」
 
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