契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
笑いを含んだ、からかうような言葉に、楓は頬を膨らませた。

「難しくなくても、はじめてなんだからわからなくてあたりまえです。だいたいこういうのって、ブシュー!っていきなり出てくるじゃないですか」
 
楓が言うと、彼はぷっと噴き出して、くっくっと笑いだす。

「ブシューっとね、くくく……! 大丈夫。ブシューとは出ないタイプだから」

「……本当ですか?」

「本当だって。ほらやってみて」
 
楓は彼からポーションを受け取った。

「それはここへセットして、カップはここ。やってごらん。怖くないから」
 
小さな子供を相手にしているみたいに言う和樹を睨みながら、楓は言う通りにする。
 
ドキドキしながら真ん中のボタンを押すと、ウイーンと音がしてカップの中にコーヒーが注ぎ込まれる。

ほろ苦い、いい香りがキッチンいっぱいに広がった。

「わっ、できた!」
 
嬉しくて、楓は思わず声をあげる。和樹を見ると、彼はにっこりと笑っている。

楓は口を尖らせた。

「和樹さん……。馬鹿にしてますね?」

「してないよ!」
 
和樹がはははと笑いだした。

「してるじゃないですか」

「してないって! ただ可愛いなって思っただけだ。本当に楓は仕事中と家とでは全然違うな。そのギャップはどれだけ見てても飽きないよ」
 
そう言って笑い続ける彼の言葉に、楓の胸は大きな音を立てはじめる。頬が熱くなってしまう。

彼からしたら、挨拶より意味のない戯言に、これ以上ないくらいに反応してしまう。自分が恥ずかしい。

「ほら、もう一度やってごらん」
 
火照る頬をごまかすこともできずに差し出されたポーションを受け取ることしかできなかった。

もう一度ポーションをセットして、ボタンを押す。
 
カップに落ちるコーヒーを見つめながら、楓は自分自身の声を聞いていた。
 
……想うだけなら、契約違反とは言えないんじゃない?
 
想うだけで、彼に知られないようにすれば……。
 
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