契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
三葉商船といえば日本を代表するグローバル企業のひとつだから、海外事業部といった華やかな仕事をしていると予想するのだろう。

無知で失礼な親戚連中からは『留学までしたのに経理の仕事? 落ちこぼれちゃったのか』とまで言われる始末だった。

「そんな風に言ってもらえるのは珍しいです」
 
自然と声が弾んだ。

「そうなんです、経理はやりがいのある仕事なんです。でも地味なイメージだから、なかなかわかってもらえなくて。やっぱり、海外事業部とか、法人営業部とかの方がカッコよく思えるんでしょうね」

「一般的なイメージは仕方がないが、実際はそんなことはないだろう。経理は会社の要だ。たいていは信頼できる優秀な社員を配置する。君は会社から信頼されているんだよ」
 
男性はそう言ってナッツを口に入れる。
 
楓の口もとに笑みが浮かんだ。その日会ったばかりの相手に対するお世辞だとしても、嬉しかった。
 
男性も楓に合わせるようににっこりと笑ってから「ただ」と言って首を傾げた。

「海外へ行けば、パートナーが見つかるという考えは安易だろう。もちろんそういう可能性はあるだろうが、欧米でもアメリカでも、日本よりも保守的な地域もある。昨日まで僕がいたロンドンでも、同じような問題で悩んでいる部下がいた」

「そうなんですね……」
 
だったらますます望みはないと楓は思う。やはり結婚は諦めて仕事にまい進しよう。

少なくとも男性よりは仕事の方が信用できる。

そんなことを考えていると、男性が楓の好みを確認してから、新たなカクテルを注文した。
 
しばらくして出てきたカクテルは、爽やかな飲み口とほどよい甘さが美味しかった。
 
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