契約妻失格と言った俺様御曹司の溺愛が溢れて満たされました【憧れシンデレラシリーズ】
「楓……」
愛おしげにすら思えるほど、優しく名を呼ぶ彼の唇が、ゆっくりと下りてくる。
楓はそれを、とくんとくんと鳴る胸の鼓動を聞きながら瞬きもせずに見つめている。互いの吐息を感じるくらいまで近づいた——その時。
「副社長?」
コンコンというノックの音と共にこちらを呼びかける声がする。和樹がぴたりと動きを止める。
「そろそろよろしいでしょうか、ゲストの皆さまを、お出迎えするお時間です」
少し高い声は秘書の黒柳だ。
今日の式典は、全社を挙げての一大イベントである。
秘書課は総出で彼のサポートをすることになっている。
和樹が小さく息を吐いて、ゆっくりと離れた。振り返り、ドアに向かって答えた。
「ああ、今行く」
ドアが開き、黒柳が入ってくる。
普段は明るい色のスーツを着ている彼女だが、今夜は裏方らしく黒いスーツを身につけてはいる。
それでも普段より気合いの入った髪とメイクが、相変わらず美しい。
その姿に、楓は心底落胆する。さっきの和樹の言葉の意味を、理解したからだ。
彼は黒柳がドア外にいることを知っていた。聞き耳を立てられていると予想して、仲のいい夫婦のフリをしたのだろう。
自分を見つめる彼の視線が、いつもと違うと感じたのは、ただの思い過ごしだった。
「さぁ、行こう。楓」
和樹が楓に向かって自分の腕を差し出した。その腕を取り楓は暗澹たる思いになる。
彼を好きだという気持ちが自分の視界を鈍らせる。彼からしたらなんでもない行為に胸を高鳴らせてしまう。
想うだけなら契約違反にはならない。
そう思っていたけれど、それは想像以上につらいことなのかもしれない。ズキズキと胸が痛むのを感じながら、ラグジュアリーな絨毯が敷き詰められた廊下を進んだ。
愛おしげにすら思えるほど、優しく名を呼ぶ彼の唇が、ゆっくりと下りてくる。
楓はそれを、とくんとくんと鳴る胸の鼓動を聞きながら瞬きもせずに見つめている。互いの吐息を感じるくらいまで近づいた——その時。
「副社長?」
コンコンというノックの音と共にこちらを呼びかける声がする。和樹がぴたりと動きを止める。
「そろそろよろしいでしょうか、ゲストの皆さまを、お出迎えするお時間です」
少し高い声は秘書の黒柳だ。
今日の式典は、全社を挙げての一大イベントである。
秘書課は総出で彼のサポートをすることになっている。
和樹が小さく息を吐いて、ゆっくりと離れた。振り返り、ドアに向かって答えた。
「ああ、今行く」
ドアが開き、黒柳が入ってくる。
普段は明るい色のスーツを着ている彼女だが、今夜は裏方らしく黒いスーツを身につけてはいる。
それでも普段より気合いの入った髪とメイクが、相変わらず美しい。
その姿に、楓は心底落胆する。さっきの和樹の言葉の意味を、理解したからだ。
彼は黒柳がドア外にいることを知っていた。聞き耳を立てられていると予想して、仲のいい夫婦のフリをしたのだろう。
自分を見つめる彼の視線が、いつもと違うと感じたのは、ただの思い過ごしだった。
「さぁ、行こう。楓」
和樹が楓に向かって自分の腕を差し出した。その腕を取り楓は暗澹たる思いになる。
彼を好きだという気持ちが自分の視界を鈍らせる。彼からしたらなんでもない行為に胸を高鳴らせてしまう。
想うだけなら契約違反にはならない。
そう思っていたけれど、それは想像以上につらいことなのかもしれない。ズキズキと胸が痛むのを感じながら、ラグジュアリーな絨毯が敷き詰められた廊下を進んだ。